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タオルで拭いきれない滴が、花宮くんの濡れた髪を伝ってぽたりと落ちた。あんなに熱いシャワーを浴びたのに、真っ白な項に張り付く髪は少しずつ外気に触れては温度を奪っていく。

「…うう、寒いさむーい!花宮くん、早く!」
「うるっせえな、ガキじゃあるまいし。」

呆れた表情で目を細める花宮くんの腕を引っ張って、半ば強引にふかふかのベッドに座らせる。構うのが面倒臭くなったのか、借りてきた猫のように大人しくなる花宮くんの髪の毛をドライヤーの温風で乾かしていく。水分を多く含んだ艶やかな黒髪は、女の私よりも綺麗で羨ましかったり妬ましかったり。

「あ、花宮くんの髪。私とおんなじシャンプーの匂い。」

数十分もすれば、次第にさらさらと靡く髪の先から仄かなシャンプーの香りがふわりと漂う。花宮くんは私の家でシャワーを浴びて私が普段使っているシャンプーを使ったんだから、それは当たり前の事なんだろうけど。それが何だかやけに色っぽくてくすぐったくて、まるで花宮くんが私のものになったような気分になって思わず緩みそうになる口元を隠せたかどうかなんてどうでも良くて。
花宮くんの肩を押すと抵抗もなくすんなりベッドへと沈んでくれた身体に跨る。花宮くんは私の腰に手を添えてゆっくりさすると、意地悪く笑った。

「なにサカってんだよ。」
「本当になんにもしないの?」
「しない。」
「………。」
「してほしいの?」

そう問われてしまえば、うんともすんとも言えなくなってしまう私を知っているのに。花宮くんはなおも笑みを深めて私の腕を掴んで引っ張った。そして駄々をこねる子供をあやすように私の髪にキスをする。

「おやすみ、名前。」
「おやすみなさい、花宮くん。」

大事にするのも大事にされるのも、交われそうで交われない温度も。手を伸ばしてはもどかしくて泣きたくなるのを、花宮くんは知ってるのだろうか。


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