text | ナノ

頭も良くてバスケも強くて、文武両道。
先生や同級生からの評判も良好。
女子には優しく、男子とはちょっと砕けた笑顔がギャップ萌え。
王子様っぽいって、あんな感じだよね。
これらはクラスメイトの大半が口を揃えて評価する彼の印象である。

「花宮くんって、王子様みたい。」

ぴたりとパソコンのタイピング音が止まると、訝しげに細められた目がじろりとこちらを向く。優しげで涼しそうな瞳は一体どこに消えてしまったのか、優等生を絵に描いたような好青年の面影が今はどこにも見当たらない。
猫背気味の背中は変わらず無言を貫き通し、私の口から零れた言葉の意味を思案しかねているようだ。暫く静かな時間が流れた後、腑に落ちる答えには辿り着かなかったのだろう。『王子様』は億劫そうに僅か肩越しに首を捻ると、呆れの混じった声音で対処にあぐねた疑問を私へと放り投げた。

「気色わりーこと言ってんじゃねえよ。」
「だって言ってたんだもん。クラスの女子が。」
「ふはっ…くだらねー。」

心底どうでも良さそうにパソコンの画面へと戻された目は、きっとブルーライトと紫外線でボロボロだ。目の下の隈も気になる。伸びた手が缶コーヒーに届く前にひょいと持ち上げると、花宮くんは瞬きをしたのも束の間に目付きの悪い瞳をより一層鋭く細めて私を睨む。

「…おい。」
「もう今日は休んだら?顔色、いつもより悪いよ。」
「余計な世話。」
「はい、いいから保存保存ー。」
「あっ…テメェ!勝手なことしてんじゃねーよ!」
「ちょっとは人の言うこと聞きなさい。」
「……お前はオレの母親か?」

打ち途中の練習メニューを無理矢理に上書き保存してあげると、花宮くんがぼそりと呟いた言葉に思わず拍子抜けしたような感覚に陥る。花宮くんのお母さんになった覚えもないし、息子をこんな風に育てた覚えが私にはない。
だけど家に帰れば花宮くんもこんな風に怒られてたりするのかななんて想像をしたら何だか微笑ましくて、思わず込み上げてくる笑いを堪える事なく噴き出してしまった。

「花宮くん…か、かわいい…。可愛いよ…!」
「いい加減黙れ。」

あからさまに機嫌を損ねてしまったらしい王子様は、机に肘をついたまま静かに目を閉じる。気が付けば部室は窓から射し込む夕日が広がり、見る見るうちに彼の真っ黒な髪の毛を朱色に染めていった。

「花宮くん、今日もお疲れ様。」

花宮くんの丸い頭をそっと撫でると微かに瞼が震えて、次第に小さな呼吸音と寝息が混じり始める。
王子様を食べた。魔女の真っ赤な口で、食べられてしまった。王子様は気付かないまま、魔女の腹の中ですやすやと眠っている。


2014/02/18

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -