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ああもうダメだ、と腰が抜けそうになったところでようやく離れた唇はとても熱くて、すっかり麻痺してしまっていた。視界いっぱいに広がる花宮くんの顔はいつも通りの意地悪な笑顔を貼り付けながら、自分の唇を舐める仕草がすごく色っぽい。限界のタイミングも僅かに潜められる声も、ぜんぶぜんぶ憎たらしいほどズルい。


「ふはっ…お前、顔真っ赤。鼻でちゃんと息しろよ。窒息死すんぞ。」

「だ、だって…!花宮くん、こんなねちっこいと思わなくて…。」

「キスくらい初めてでもねえだろ。」


押されてばかりで悔しかったからちょっと反撃してやろうと思った程度の嫌味だったのに。花宮くんはそこそこ整った顔を非常に不愉快そうにしかめては再び唇を重ねてきた。息苦しさに固く瞑っていた目を思わず大きく見開くと、私の反応が面白おかしいのか喉の奥でくつくつど笑う花宮くんの口角が吊り上がる。
とうとう、とうとう花宮くんの手が私の胸にまでちょっかいを出してきたのだ。ねちっこい上にしつこい。

「ん、ん……んーっ。」

自分でも少し強情かなと思いつつも必死に頭を引けばお構いなしにそれを追い掛けて、これ見よがしに粘着質な水音を鼓膜に響かせてくる。制服の上から胸を揉む五指は思いの外に優しい手付きで、掌は丸みを帯びる制服のラインに沿って膨らみを撫で回す。親指の腹で敏感な箇所を探し当てるようにぐりぐりと擦られると、思わず漏れる甘ったるい声に首を振る。これじゃあ、まるでよがってるみたいだ。
いつまでも抵抗を止めない私に呆れたのかそれとも面倒になったのか、大きな手で後頭部を固定されたかと思えば先程よりも深く深く咥内を荒らされる。ぐちゅぐちゅと舌先を噛まれて吸われて、当然ながら息なんて出来ない。舌で掻き回される度に飲み込めない唾液がだらしなく顎を伝って、唇を舐められる度に情けないほど色気のない声が花宮くんに聞かれてるのだと思うと泣きたくなった。
つい1ヶ月程前まで幼馴染みだった人の前で、どんな風に感じれば良いのかもどんな風に喘げば良いのかも全く解らない。それなのに目の前の幼馴染みはそんな事もお構いなしで知らない男の顔をして迫ってくる。
キスだってセックスだって初めてな訳じゃない。だけど花宮くんとのキスは何もかもが初めてなんだから、もう少しくらい心の余裕をくれてもいいんじゃないかと、訴えるくらいは許されるんじゃないかと思ってしまう訳で。
あんなに拒んでいたはずの身体に気が付けば縋り付いていた私はいつの間にか花宮くんに見下ろされていて、乱れるスカートから剥き出しになった太股に花宮くんの勃起した熱が制服のズボン越しに擦り付けられる。
キスだけで呼吸も思考も見事に奪われてしまった私はきっとひどく淫らな顔をしているに違いない。口の周りなんかベトベトで、整わない呼吸のまま必死に空気を吸っている。


「えっろい顔。何だかんだで、もう濡れてんじゃねーの?」

「や、やあ…。やだっ…。」


嫌だ嫌だと言いながら、罵られて喜ぶ身体を見られたくない。乱暴に扱われて濡れるそこを知られたくない。それなのに私の身体は平気でもっともっとと腰をくねらせてしまうのが耐えられない。
一つ一つボタンを外されていくブラウスの胸元から肌が露わになると、花宮くんがその谷間に顔を埋める。ゆっくりと舌を這わせていくのに合わせて、小刻みに肩が震えてしまう。伝わらないようにバレないように、必死に両手で口を覆う。あと少し、あともう少しだけ我慢すれば花宮くんと繋がれる。そうすれば私と花宮くんは恋人になれるんだから。そう思った矢先。


「…やめた。」

「……へっ?」

「だってお前、全然気持ち良くなさそうじゃん。」

「な、なんで?全然気持ちいいよ!」


胸の間から不満げな顔を覗かせる花宮くんはちょっとだけ不格好で、笑ってしまいそうになるのを慌てて堪えたもののすでに遅く。性欲の塊のようにギラギラした目は普段と同じ気怠さを取り戻していた。その時にようやく花宮くんと最後まで繋がれなかった事の後悔と、どうしてこんな事すら受け入れられないのかという罪悪感が胸中を占める。もしかしたらもう、花宮くんは求めてくれないかもしれない。幻滅されてでも本当の自分を晒してしまえば良かったのに。とりあえず、いつもみたいに花宮くんの背中に凭れかかってみる。


「…ごめん。」

「幼馴染みが長くてどうすりゃいいかわかんねえこともあれば、幼馴染みだからわかることもあんだよ。」

「怒ってる?」

「怒ってねえから、さっさと慣れろ。そんなガチガチになられたら、やる事もやれねーだろが。」

「さ…最低…!」

「付き合ってんだから、普通なんじゃねえの。」


本気で花宮くんはやる事しか考えてないようだ。私の気持ちを少しでも汲み取ってくれているんだと嬉しくなったのも束の間、離れかけた腕をがっちり掴まれてしまう。


「…や、やだやだ離して!犯される!」

「うるせえな…。その無駄口閉じねーと、マジでぶち犯すぞ。」


凶悪な舌打ちには似つかわしくない、繊細な抱擁で一気にゼロになる距離。中途半端に乱れた制服から互いの肌がぴたりと触れて、そこから体温と心音がゆっくりと伝わってくる。とくんとくんと脈打つ熱が、急にもどかしく感じた。


「花宮くんって、こういうの興味ないと思ってた。」

「名前こそ、こんな隠れ淫乱だと思わなかった。」

「うっ……。」


返す言葉がなくなって口を噤むと、いつもの口喧嘩で勝ち誇ったような顔で花宮くんが笑った。


「――…仕方ねえから、もう少しだけ幼馴染みしててやるか。」


くしゃくしゃと乱雑に前髪を撫でる手は変わらず大きくて頼りになる幼馴染みの手なのに、艶っぽく目を細める仕草は私の知らない男の子の顔だ。
安心感に浸りながらもそんな花宮くんに刺激を求めているわがままな私を、まるでお見通しだと言いたげな目で射抜いてしまう。そしてそれは、花宮くんも同じだった。


「優しくしてやれるうちに、腹括れよ。」

「ひっ…!」


2014/02/11

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