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花宮くんには噛み癖があるらしい。例えば考え事をする時だとか、行為中の時だとか。それは目に余るようなものではなくて、凝視していなければ見逃してしまうような。ほんの小さな、些細な仕草のようなものだ。
花宮くんのその癖に気付いたのもつい最近で、私としては特に気にもならないし、嫌悪感なんてものは以ての外で。ただただ不思議な興味と好奇心を以てして、花宮くんの横顔を眺めてみる。

「花宮くんって、それ気付いてる?」

私の声にふとこちらを向く花宮くんの顔は訝しげで、唇から離れたストローがからんと音を立ててグラスの縁をなぞるように滑った。

「…飲みにくくて仕方ねえんだよ。ガキじゃあるまいし。」
「吸う力が弱いんじゃないの?今の若い子って口の筋力が弱いらしいし――…そうじゃなくて。」

読んでいた雑誌をベッドの上に置くと、よいしょと四つん這いになりながら花宮くんの傍に向かう。花宮くんはというと、テーブルに頬杖を突きながら今度はどんなくだらない思い付きをしたのかと言わんばかりに億劫そうな表情で私の行動を見守る。バカだ単細胞だくだらねえ意味がわからねえ等と罵りつつも、結局はこいつも私の行動に興味があるのだろう。可愛いヤツめ。

「これだよ、これ。花宮くんの噛み癖。ほら、もー。またストローだめになった。」
「はあ?知ってるけど、それが何だよ。」
「……噛み癖ってさあ、」

神経質な人間や、普段から何かに圧迫されている人間。幼少期に甘えるという行為が足りなかった人間等、成長するにつれてそういった何かしらの理由で表れる一種の心の癖だと聞いた事がある。
軽く押し潰されたストローの吸い口を指で触れながら、ふと口に含んでみる。残る歯形でおうとつになった箇所に舌を這わせると、こぽりとグラスの中のアイスコーヒーが波打った。

「……なあ。」
「んー?」
「お前、気付いてる?」

聞き覚えのある言葉に眉根を寄せると、人を小馬鹿にしたような笑顔を浮かべた花宮くんの顔を見上げる。口端から垂れそうになる唾液を必死にごしごしと手の甲で拭うと、花宮くんは愉快そうに喉の奥で笑いを漏らしながら私の首をぐっと掴んだ。

「妄想と現実の区別もつかねえの?自覚がありゃあ、ただの悪癖だな。」

徐々に力が込められていく大きな手に思わず自分の手を添えると、花宮くんが興奮したようなギラギラした目で私を見下ろす。私は見落としていた。彼にはもう一つ悪癖がある事を、失念していた。いや、もしかしたら私はそれを期待していたのかもしれない。

「物欲しそうな顔しやがって。この変態女。」

首筋に走る激痛と、疼く子宮。これ以上の悪癖があるものだろうか。
花宮くんは私がずっと隠してきた悪癖をすんなりと受け入れて、私は花宮くんの悪癖を喜んで求めている。悪癖とは所詮、悪癖でしかないのだ。


(2014/03/30)

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