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食事を終えてのんびり過ごす時間が好き。大好きな雑貨やインテリアの雑誌を少しずつ読み進めながら、これも可愛いあれもいつか部屋に飾りたいなんて膨らませるだけ膨らむ夢に満足して、気が済むとたまにテレビを付ける。
今話題の芸能人や大好きなアイドルがクイズに格闘している様子を横目に眺めながら、お気に入りのマグカップにお気に入りのお茶のティーバックを底に沈める。今日はチョコレートフレーバーのお茶。今は色んなフレーバーのお茶や紅茶の種類があるけど、こればっかりは物珍しさと誰かさんの顔がチラついて思わず衝動買いしてしまった代物だ。ポットのお湯をゆっくりマグカップに注いでいくと、ゆらりと揺れる波を伝い徐々にお茶の色味が出始めた。
さて、ソファーに戻ってテレビの続きでも観よう。振り返った私は早々にして、長身の人影による圧迫感と威圧感に飛び跳ねそうになる心臓とマグカップを慌てて取り繕う。

「わ…わああ!」
「うるせえ。」
「何でそんなとこ突っ立ってるのー。危ないからそこ、どいて。」

お茶が花宮くんに飛び跳ねていないか確認しては安堵し、わんこに接するような感覚でしっしっと口を尖らせる。意外な事に花宮くんはすんなりと道を空けてくれた。ちらりと彼を見ると、その視線は私の手が握っているマグカップへと向けられている。

「これ、珍しいでしょ。ほうじ茶だよ。」
「匂いが甘ったるい。」
「だってチョコレートだもん。」
「嗅覚と味覚が倒錯し過ぎだろ。」
「面白いからいいのー。」

のらりくらりとソファーに腰掛けながら、再び芸能人のクイズ対決に私も途中参加。お笑い芸人による的外れな珍回答が繰り返される中、隣に座る花宮くんは静かだ。いつもなら「くだらねえ」とか「ワザとらしい」とか「名前はこんなのもわかんねーの?」とか、とにかくイヤミったらしくてねちねちうるさいのに。

「……ねえ。一応聞いてみるけど、これ飲みたい?」

花宮くんは特徴的な眉間に皺を寄せながら、無言でカップの中身を見つめている。

「言い方を変えてみよう。これ、気になる?」

――返事はない。ただの悪童のようだ。

「茶葉じゃなくてティーバックだし、お湯も沸かしたてじゃないポットの残りだよ?」

花宮くんの鼻先にマグカップを近付けてあげると、ふわりと甘いチョコレートの香りが漂った。だけどもこれは、紛れもなくほうじ茶である。
花宮くんはますます険しく目を細めるも、意を決したのか一口。恐る恐るカップの縁にその唇を寄せた。そして鳴る喉。上手く下せなかったのか、ゴツゴツした喉の奥でくぐもった息を漏らして小さく噎せてしまった。小刻みに震える大きな背中を撫でると、花宮くんは何度か咳き込んだ後にべーっと舌を出してみせた。

「花宮くん、こういうのも飲むんだね。知らなかった。」
「名前がヘンなモンばっか買ってくるから気になんだよ。」
「えーっ。私のせい?」
「名前のせい。」
「ふふ、花宮くん可愛い。」

花宮くんの手をぎゅっと握ると、花宮くんも長い指先を絡めてくれる。

「でも、美味しかったでしょ?」
「嫌いじゃない。」
「これからは花宮くんの分も用意しとくね。」
「最初からそうしとけ。」
「うん、ゴメンね?」

そうしてやっぱり実感する。可愛いインテリア雑貨よりもテレビの中の華やかな芸能人よりも、お気に入りのマグカップやお茶よりも。大事な大事な愛しい彼がいれば、私の心は目一杯の愛情で満たされて膨らんでいくんだって。


(2014/03/09)

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