白いマグカップ

※一人称や口調など、原作にプラスして皆様の二次創作から大きく影響を受けています。苦手な方や、途中で駄目だと思ったかたはそっ閉じしてください。お願いいたします。

※傭兵(ナワーブ)くん、機械技師(トレイシー)ちゃんが良い雰囲気?な展開です。





遠くから聞こえる銃声に、両肩が器用に跳ねた。
建物の間を反響してきたように場所の特定が出来ない音に、視線を左右に忙しなく動かす。勿論、音のした方角なんて分かるはずがない。恐らくだけれど、これは自分にしか聞こえていないのだから。

ナワーブは頭を抱えなおしてベッドの上へ転がると、いつか荘園のどこかでみた東洋のダルマを思い出した。確かあれは、何度倒そうとしても起き上がってくる人形だったはずだけれど、生憎人間はそんな風には出来ていない。


コンコン。
ノックの音に先程よりも大きく体が跳ねた。


「起きてる?」

「……起きてる」

「入っても良い?」


落ち着いたソプラノに少しだけ現実が帰ってきたような気がする。ナワーブはまだ震える手でどうにか鍵を開け、ドアを押した。
寝る時もこの格好なのだろうか、ドアの先に居た少女は作業着のままだった。流石に帽子やゴーグル、ポケットに入っているスパナやドライバーなどの工具は置いてきているようだけれど、いつもと似たような姿に心臓が少しだけ落ち着く。
機械技師−−トレイシーの両手には白いマグカップがそれぞれ握られていて、まだ熱そうな湯気を立ち上らせている。


「ホットミルク作ったから飲んで」

「…うん」

「甘いの平気?お砂糖入れちゃったんだけど…」

「大丈夫」

「さっき、風で大きい音が外からしたでしょ?ナワーブくん大丈夫かなって思ったんだ。僕もびっくりするくらいだったから」


にっこり笑ったトレイシーはマグカップを差し出す様子は一切無い。ナワーブは諦めて半身で避けると彼女を部屋へ招き入れた。こんな遅い時間に女の子を部屋に入れることには抵抗があったし、なんだったらその警戒心の無さを分けて欲しいくらいだ。

この荘園に招かれている誰よりも、自分の言葉を的確に読み取ってくれるような気がするのはエミリーだ。医師なだけある。けれど己を理解してくれることよりも、トレイシーのように気負わず近づいてくれることのほうが、なんだか嬉しく感じられた。


「椅子借りるね、ベッドは申し訳ないから」

「ああ、どうぞ」


先に椅子へ座ったトレイシーからマグカップをもらうと、ナワーブもベッドへ座って口を付けた。ふんわりと甘い香りがする。


「ナワーブくん、ようやく食べれるようになったね」

「ん?」

「最初の頃は、自分で作らないと食べられない!みたいな感じだったのに。今はもう、僕とか他のお姉さんたちが作ったものも食べられるでしょ?」


言われてみればそうだ。
思い出したくもないあれこれのせいで、他人が苦手だし、騒音も駄目だ。


「だからちょっと提案しに来たんだ。」

「…あんまり良い予感がしない」

「えへっ、そうかな?ただ僕が、ナワーブくんが眠るまでここに居ようかなってだけだよ」


今度こそ、大きく両肩が跳ねた。

この子は一体何を言っているのだろう。そんなこと、年頃の女の子が言っちゃ駄目だろう。なんだってどんな理由があれば、男の部屋に居座ろうというつもりになるのか。もしかしたら、機械にしか興味が無くて男だとか女だとかいうことが頭から抜け落ちてしまっているのか。
ハンターにダウンさせられた時のような衝撃に動けずにいると、手からマグカップが抜き取られた。彼女にトンと軽く押されてベッドへ倒れると、隣に椅子を運んできた彼女の手がふんわりと伸びてくる。
前髪をよけて、そっと額を撫でられる。


「おやすみ、ナワーブくん」


二人分の空になったマグカップが、殺風景な机の上に仲良く並んでいた。













2018/10/13 今昔

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