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・亮介side
伊「琴原のやつ…すげぇな」
増「んがっ」
小「もうここまで来たらただの馬鹿でしょ」
今は現国の授業。
4人班で作業をする、と言うことで席の近いメンバー同士班を作り、机をくっつける。
俺たち3人は、そのうちの1人を見つめ、ため息をこぼす。
そいつはというと机の上に腕を組み、目を瞑って頭を伏せている。
…寝息を立てながら。
それはまぁいい。授業中寝ないって人の方が珍しいと思うし、こんな堂々とではないけどオレだって練習で疲れが溜った時は、先生に申し訳ないな、とは思いながらも、うたた寝をする時だってある。
それは然り、増子も純も同じだろう。
問題は、今は現国、という事だ。
そう、つまり、片岡監督の授業なのだ。
片岡監督、いや授業中は片岡先生よ呼ぶべきか。
片岡先生は学校生活では厳しいながらも、きちんと生徒1人1人を見てくれており、相談にも親身になって乗ってくれると定評がある人気の先生だ。
しかし部活動ではまた違う。野球部の監督である片岡監督は、部員である俺らには特に厳しく、それは部活内外問わず。
その為、俺らは片岡監督の怖さを人1倍知っている。
もちろん、怒りのツボも心得ている。
なんて思いながら、こいつから目線をずらし監督の方に目を向ける。
ほら、来た。
こっちに気付いて歩いてきてるよ。
「琴原」
なんとも言えないオーラを纏いながら、琴原の真後ろに立ち、名前を呼ぶ片岡監督。
と、同時に目の前に座っている純と増子まで肩を震わす。
琴原の隣に座っているオレの真後ろからもすごい威圧。
あーあ、オレ知ーらない。
「おい琴原、起きろ」
関係の無いはずの純と増子から冷や汗が見える。
まるで自分が怒られているかのように。
一方琴原はというと、一向に起きる気配がない。
「おい、琴原!」
『っあ"〜もう!うるさいなぁ!なに!?』
ついに声を荒げる監督に対し、寝ぼけながら叫ぶ琴原。
一瞬にして教室全体の空気が冷えたのがわかった。
それを感じ取ったのか、琴原も「なに?」という目をしながらオレの方を見てくる。
溜息を吐きながら後ろを指さすと、琴原は?を浮かべながら振り返った。
…と同時に琴原の血の気が一瞬で引く。
ほんとに馬鹿だと思う。
『かっ、片岡せんせ…』
「琴原、オレの授業で寝るとはいい度胸だな。放課後職員室に来い」
『ひっ…』
言葉ではそれほど怒っていなくとも、監督ほど空気で分かる人はいないと思う。
黒板の方へと戻っていく監督を確かめた後、震えながら前へ向き直す琴原。
『〜〜っなんで起こしてくんないのよっバカ!』
伊「お前…ほんっと最高だわ!」
出来る限り小さな声で、でも最大限に怒気を含んで話す琴原に対して、必死に笑いをこらえている純。
小「お前ほんと馬鹿だね。寝起き悪すぎだし」
『ひどい…』
伊「さよなら現国の単位」
『うっさい!』
伊「留年すんなよ」
『しないよバカ!』
馬鹿にし続ける純と、まんまと馬鹿にされるのに乗ってしまう琴原。
こう言うところが面白くていじめがいあるんだけどさ。
TPOを考えないこいつらは、だんだん声がでかくなってることに気付きもしない。
監「伊佐敷、お前もだ」
伊「えっ」
だから言ったのに。
伊「琴原…テメェふざけんなよ」
『私のせい!?』
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