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『あれ?沢村君だ』
沢「はっ!琴原先輩!先日はありがとうございました!お世話になりました!!」
『こちらこそー。何してんの?』
沢「いやはや!琴原先輩の手を煩わせる訳にはいかないんで!」
『いや、なにしてんのかって聞い…』
沢「そんな!お兄様と布衣の交わり関係である琴原先輩には…!」
『…なに言ってんの?』
日直である私は、次の授業で使う資料を運んでくれと、担任に言われてしまい休み時間に図書室を訪れた。
すると、図書室の席に座っていたのは、野球部1年生の沢村くん。...相変わらずうるさいな。
チラリと机に広げられた教科書やプリントを見ると、次のテスト科目である教科書と、恐らく小テストでペケばかりのプリントが広がっていた。
『あーテスト勉強してんの?』
沢「そうなんす!赤点があったら追試で試合出れなくなってしまうもんで!」
『それは困ったね、丹波くんも怪我しちゃったからね』
投手である丹波君が以前の練習試合で怪我を負ってしまい、戦線離脱している上に、1年生投手の沢村君まで追試で試合に出れなくなってしまったら、そんなの気の毒でならない。
『仕方ない、私が勉強見てあげるよ』
沢「え!まじっすか!!」
『どれどれ...』
一時的にでも私だって野球部に関わった身だ。
他人事にはしたくないし、何より泣きながら机に向かっている沢村君が不憫で不憫で。
少しでも助けに慣れればと、沢村君の教科書を借り、テスト範囲をパラパラとめくる。
沢村君は目をウルウルさせ、まるで子犬のように私の方を見てくる。
...何この子、可愛い。
『って、これ...』
沢「はい?」
『ごめん、ぜんっぜん分かんないわ』
沢「は?」
『いや、まじでごめん。こんなんやった記憶ない』
沢「なんすかそれ!!先輩3年生でしょう!?」
『うるさい!3年生が皆頭良いと思うなよ!』
沢「期待した俺が馬鹿だったーーー!」
『口には気を付けろよ1年』
まさかと思いながら、教科書とプリントをにらめっこするも、こんなん記憶にない問題ばかり出てきていて焦る。
いや、恐らく自分も1年生の時にやってはいたんだろうが、元から頭も良くない上に、テスト前はいつも一夜漬けな私は、とっくのとうに頭の中から抹消されていた。
かっこいい先輩をアピールしようとするも上手くいかず、正直に沢村君に伝えると、あんなに天使を見るかのような瞳が一変、口の利き方も分からないようなクソガキになった。
...舐めてんのかコイツ。
キャンキャン吠える沢村君を無視して、私は担任に頼まれた資料を探すべく、席を立った。
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