26


・貴女side



先程まで話していた対象の人物はグラウンドの中でグラブを持ち守備練習をしている。

めちゃくちゃ強い打球も、速い打球も、奴は素早く動いて簡単にボールを掴む。


…ムカつくな。

ムカつくけど、小湊って野球上手いんだ。
背ちっさいからとか勝手な理由で補欠なんだと思っていたけど。

そう言えばクラスの皆がうちのクラスの野球部は全員レギュラーだとか言ってたっけ。





「おー琴原ー」

『伊佐敷』

伊「なんか倉持の奴がお前が呼んでるから行ってやれってよ」

『くっ、倉持くん、、、!』





倉持くん!なんていい子なのっ、、、!
あんなヤンキーみたいな見た目で(先入観)小湊の舎弟で(失礼)野球部なのに(偏見)…!

涙ぐみながら小湊と同じようにプリントを渡すと、素直に「さんきゅ」と言いながら増子の分のプリントまで受け取ってくれた。

……最初からこいつに渡せばよかった。





『それにしても凄いねえ、野球部。強いのは知ってたけどこんなハードな練習してるんだ』

伊「あーまあな。もうすぐ夏の予選始まるし。」





伊佐敷も練習中だったろうに、わざわざ抜け出して貰って少し罪悪感が湧く。
それは小湊に対してもだけど。

そんなことを考えながら再びグラウンドに目を向けると、またもやグラウンドの真ん中辺りで軽快に動き回る小湊が目に入る。
特別運動神経が良いとか足が速いとか、そんなイメージはなかったけど。





『小湊って野球上手いんだね』

伊「あーまあうちの不動の2番で鉄壁の二遊間って言われてるしな」

『ふーん』

伊「あいつは身体がちっせえから人の倍やるんだって1年の頃から死ぬほど努力して」

『...』

伊「今じゃ青道1の技巧派で鉄壁の守備。選球眼も良くてよー、特にあいつ粘り打ちハンパねぇから投手に嫌がられる打者No1でもあるな。」

『......野球でも性格の悪さ出してんのね。』





いくら強豪校の野球部と言ったって、私からしたら結局は普段クラスで過ごしている様子しか見たことないただのクラスメート。
特に小湊なんか敵に回したくない敵、という悪い印象しかなかったのに。

普段見たことない野球をしている姿、真剣にボールを追う姿を見て少しだけドキッとした。


野球のことなんて詳しくないし、技巧派とか選球眼とか言われてもよく分かんないけど、伊佐敷の話を聞く限りなんとなくあの性格が野球でも発揮できてるんだと思ったまま言ったら爆笑された。




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -