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・貴女side
『ごめんごめん、ねぇ見せてよ』
相当恥ずかしいのか、いつもより怒鳴り散らしてくる伊佐敷に軽く謝り、少女漫画に手を伸ばす。
すると、伊佐敷はブツブツ言いながらも乱暴に私の机にマンガを投げた。
物を投げるな、と心の中で思いつつ、少女漫画を手に取りパラパラとページを捲る。
横目に、小湊が伊佐敷を慰めている姿が見える。
『はぁ〜、やっぱこんな恋愛してみたいよねぇ〜』
現実では有り得ないようなお話、キザなセリフに行動、それをキュンキュンしながら見ることができる少女漫画はやっぱ最高。伊佐敷、笑ってごめんね私も大好きだよ少女漫画。
『先輩から呼び出しとか』
小「3年なんだから先輩いないじゃん」
『いつもマネの仕事ありがとなって部員といい感じになるとか』
小「部活入ってないじゃん」
『一目惚れしましたって学年1のイケメンに告られるとか』
小/伊「ありえないから」
『もううるさいなぁ!!!』
理想を語るとその都度、小湊が馬鹿にするようにつっこんでくる。
学年1のイケメンに関しては伊佐敷まで…。
良いじゃないか、別に妄想ぐらいしたって。
頭の中でぐらい夢を見させてよ。
…ほんと腹立つ。
『2人だって彼女出来ないんだから人のこと言えないよ』
伊「あ?亮介は作んねーだけだろ」
『え』
伊「この前も後輩に呼び出されてたしな」
小「純、余計な事言わなくていいから。琴原、顔やばい事になってる」
馬鹿にしてくる2人だけど、こいつらだって彼女いないんだし?
私の記憶が正しければ一緒に過ごして期間、過去にいた記憶すらない。
そんな2人に何言われたってなんとも思わないし!
そう強気で言い返すも、伊佐敷の何気ない言葉に空いた口が塞がらない。
頭を必死にフル回転させると、わずかに記憶が蘇ってくる。
そ、そう言えば…バレンタイン割と貰ってた…?気もしなくもなくもない気もしてきたかもしれない。
…ちょっとよくわからないけど。
『え〜!でも小湊がぁ?背ちっさいじゃん!』
小「琴原喧嘩売ってんの?ていうかお前がデカイだけで、普通の女子からしたらオレの方が背高いから」
『それもそうか……』
いやいやでも無いでしょ!?と言い返すも見事なカウンターを喰らう。
恐らく多分最初馬鹿にされたけど、それに反応できないくらいの驚きと納得。
小「ま、純は出来そうにないけどね、彼女」
『それ読んでちゃーね』
ハッと鼻で溜息を吐き、肘をつきながらマンガを伊佐敷に手渡し小湊に便乗する。
『読みなよそれ、ごめんね私が初見頂いちゃって。ほら、早く読んで自分と貴子ちゃんに置き換えて妄想しなよ』
伊「テメェ………死ねオラァ!!!!!」
『いっだだだだだだだ』
別に馬鹿にしたわけじゃないのに……
ほんとにこいつ照れると力加減馬鹿になるな!?
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