『あ...帰ってたんだ』

「うん、もう出るけど」





家に帰るといつもは付いていない電気が付いていて。
数週間振りに母が帰って来たんだとリビングの扉を開ける。

父は大分昔に家を出た。
その原因は母の浮気。

未だに色んな男の家を転々としているみたいで、たまに帰って来る時は私のご飯代としてお金を置きに来る時か男の人と別れて居場所がない時。

父が私を置いて行ったのを今更恨んでもしょうがないし、母もせめてもの親心で必要以上のお金は渡してくれる。
そこに愛情なんてものは存在しないんだろうけど。

これからいかにも出勤しますといった格好で、家を出る母の背中を見つめる。





『はぁ...何食べよう』





それでもムカつくことに、お腹は減る。
そう言う状況になれば嫌でも料理の腕はつくと思っていたのに、私の場合、そんな順応力はなかったようで。

コンビニ飯やら外食やらで済ます日々。

補導されないように私服に着替え、コンビニへと向かう。





「君何してんのー?」

『...』





夜のコンビニは何故こんなにも柄が悪くなるのか。
買い物袋を片手にコンビニを出ると、喫煙所でタバコを吸っていた人が駆け寄ってくる。

こういうのは無視が1番だと分かっているけど、家から近いコンビニにの為、家までついつ来られても困る。

中戻ろうかな。





「ねぇちょっと遊びに行こうよ」

『っ!』

「ったく、帰ってくんのおせーと思ったら何してんだよ」





無視を決め込んでいたと言うのに、この人は空気を読まず話しかけて来るし、おまけに肩に手を置かれてゾワリと背中が震える。

どうしようかと頭の中をぐるぐると色んな事が飛び交っていると、突然目の前にメガネを掛けた長身の男が現れた。





「てか誰その人?友達?」

『えっ...?』





おそらく、この人は私に話しかけてる。
んだけど、誰だっけ、この人。

必死に記憶を辿るも、やっぱり出てこなくて。でも質問には答えなくてはとフルフルと頭を振る。





「違うの?じゃあ誰お前?」

「あっいや、別に」





元々の顔面が、まあまあ凶悪面なメガネの人に睨まれると、私の肩に手を置いていた男性は少し身震いし、足早にこの場を去って行った。





「はぁ...大丈夫か?」

『えっ、あ...』

「気を付けろよ、こんな時間に出歩いて。何かあってからじゃ遅いだろ」





そう言われ、この人は助けてくれるために声を掛けてくれたのだと気が付く。





『ありがとう、ございました...』

「おー、家近いのか?」

『すぐそこです』

「そ、じゃ気付けて」

『あ、はい』





ありがとうございました、と、もう一度頭を下げて伝えるも、当の本人はすでに背を向けコンビニに入って行ってしまった。

その後ろ姿を見送り、また変な人に絡まれる前にと、走って徒歩5分距離の家まで走って帰った。




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