第1話
・貴女side
とっくに消灯時間は過ぎた寮内。
シーンと静まり返るこの空間に、私の潜む息がやけに耳に響く。
山田の奴…
よりによって宿直の先生が剛田の時に呼ぶんじゃないわよ…
体育科の剛田先生。
彼は生粋の暑がりで、冷房がない寮監室の扉はいつも開けっ放しにして過ごしている。
そして真面目で熱血。
宿直の先生でも、居眠りをしたり、職員室に戻っている先生もいる中で、
彼はトイレに行く時以外は絶対にあの部屋からいなくなることはない。
どうしたものかと、寮監室の前の廊下に差し掛かる陰で息を潜めこと早5分。
…無理だ。無理に決まっている。
山田には悪いがもう帰るとしよう。
わざわざ危険を冒してまで行く理由が思いつか無い。
ため息を一度吐き、着ていたパーカーのフードをもう一度深く被り直した。
「おい、何をしている」
『っ!!』
来た道をもう一度戻ろうと振り返ろうとした瞬間、聞こえた声。
おそらく、いや100%間違いなく、私に対する問いかけだろう。
冷や汗が止まらない中、頭をフル回転して考える。
宿直の剛田は寮監室から出てきていない。
宿直の先生は一人しかいない。
だから声の主は先生ではない。
…はず。
僅かばかりの希望を持ち、恐る恐る後ろを振り返る。
…と、そこには見知った顔が。
女子も羨む整った顔を僅かに歪めて。
『な、っんだ…東堂かぁ…びっくりさせないでよ』
「なんだとはなんだ。何をしていると聞いている」
『別に東堂には関係ないでしょ』
「そうか、それもそうだな。では俺は剛田先生のところに用があるのでな」
『ちょっと!言いに行く気でしょ!!!』
私を追い抜いて寮監室の方へ曲がり角を曲がって行こうとする東堂のTシャツを引っ張る。
そうとは言っとらんだろう、と飄々と抜かすが、私は知っている。
この顔はそう言う顔だ。
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