第7話




「ほんっとにあのバカ、危機感ってもんがないのかよ...」





頭からシャワーを浴び、彼女の無防備さにため息を溢す。

そりゃ俺たちは幼馴染だし、結衣がそういう感情を一切持っていないことだって知っている。
けれど俺たちが男と女である以上、そういった間違いが起きらないとも限らないのに。

もう少し警戒心を持って欲しいと言う気持ちで再びため息を溢す。





「しかも寝てるし...」





風呂から上がり、髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、結衣は呑気に俺のベッドで眠っていた。

本日何度目かのため息を吐き、物音を立てないようにゆっくりとベッドに近付き腰を落とす。
顔に掛かっている髪の毛を流し、そのまま頬を撫でる。





「ほんとに、何されても文句言うなよ」

『...ん、もも...?』

「!!!な、なんもしてない!!!」

『は、?』





少し彼女に顔を近付けると、閉じられていた瞳がゆっくりと開く。

とっさに両手をあげて距離を取ると、まだ若干寝ぼけた様子で起き上がる。

どう言い訳しようかと必死に頭の中をフル回転されるも、彼女は気付いていないようで、頭にハテナを浮かべている。





『アイス』

「え!?」

『アイス、食べたい』

「な、ないよ、アイスなんて」

『よし、じゃあまた勝負しよう!』





まだ寝ぼけているのかと思っていたけれど、おそらくはっきりした意識で途端にアイスが食べたいと言い出す彼女に、出来るだけ平常心を持って答える。

結衣のいう勝負というのはおそらく、もう分かっている。幼い頃から、こういうことがあるといつもやっていた。

というのも、それは腕相撲。
なにかあると、いつも腕相撲で勝敗を決め、負けた方は勝った方の言うことを聞く。
この場合は、負けた方は勝った人の分も含め、アイスを買いに行かなければいけない。





「えぇ、今からぁ!?」

『うん!よし百、いくよ!』





結衣はベッドから降り、ローテーブルに右腕を付くと、早く準備しろという目で促される。

俺も渋々右腕で出して手を掴むと、彼女のスタート合図と同時に力を入れる。





『やったぁ!また私の勝ちだね!』

「...」

『百はほんと弱いねぇ!じゃ、私いつものやつでよろしく!』

「...はいはい」





嬉々とした表情で告げる彼女に背を向け、パーカーに財布を入れ、星夜月の下コンビニへと向かった。





「そりゃ、好きな女の子をこんな夜中に行かせるわけないだろ...」





いつからか、俺たちの間に力の差が出来てしまったことにも、彼女はまだ気付いていないらしい。

俺のこの気持ちも、きっと彼女は気付かないままだ。




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