第5話




『あー!面白かったねぇー!』

「オレ最後泣いちゃったよ!」

『あれは泣きすぎー』





もうかなり日も落ちて、薄暗くなった帰り道。
帰る場所も隣なもんで、いつも通り2人並んで、映画の感想を言いながら帰路に着く。





「あっ百瀬くん!」

「あ、先輩!こんばんは!」

「ふふ、こんばんは」





家の近くまで来ると、耳に響き渡るような可愛らしい声で、百の名前を呼ぶ声が聞こえ、2人して振り返る。

誰...?という表情を見せると、百はすぐに察し、部活の先輩と教えてくれる。

そっか、高校に入ってからまだ試合も無く、部活も見に行っていなかったから、サッカー部にどんな人が居るかなんて知らなかった。

先輩と紹介された人は、恐らくマネージャーなのだろう。
一言で言うと、めちゃくちゃ美人。
外部活にも関わらず、日焼けを知らない白肌で。
ざ、王道物語の中心にいるマネージャーって感じの人だ。





「百瀬くんは、デートかな?彼女?」

「あ、いえ、幼馴染です」

「幼馴染...そうなんだ」





一瞬、勘違いだと思いたいけれど、睨まれた...?
そう思うも、すぐにニコリと可愛らしい笑顔を向けられ、色んな意味でドキリと胸が鳴る。





「じゃあ、明日の部活も頑張ろうね!」

「あ、はい!」





先輩マネージャーさんは、百の肩に両手を掛けると、上目遣いでニコリと笑い、後ろに歩き始めて行った。

いやいやいや、いくらなんでも分かりやす過ぎないか...?
百を見ると、苦笑いをしながら頬をかいている。





『もう暗いけど、送ってかなくていいの?』

「えっ!?オレ、あの先輩、ちょっと苦手なんだよね...」

『百に苦手な人とかいるんだ』





百はこう見えて、こう見えて?
割と誰にでも分け隔てなく接するタイプで、コミュ力も高いし、誰とでも仲良く打ち解けるタイプだと思ってた...。
そう零すも、百は、見せないようにしているだけだと再び苦笑いを浮かべる。





「なになになにー?修羅場ー!?」

「びっっくりしたぁ!」

『瑠璃ちゃん!?』

「だーれー!百!今の!かんっぜんに狙われてるじゃん!」

『やっぱり!?』

「もー、やめてよー...」





以外にも、百にもそんな一面があったのかと思っていると、この静かな空気の中、突然現れた人によってぶち壊される。

その人物はと言うと、百のお姉ちゃんである瑠璃ちゃん。
瑠璃ちゃんも恐らく今の現場を見ていたそうで、興味津々に百に突撃する。

やっぱり、あの一瞬でも、先輩マネージャーさんが百にそういった感情を持っているのではないかと思ったのは私だけでは無かったようで。

しかも、当の本人も若干勘づいているようで、困った表情を浮かべる。





「結衣!気を付けてね!」

『えっ何を!?』

「あの目は完全に、結衣を敵視してたね」

『えぇっ、でも幼馴染ってちゃんと言ったよ!?百が!』

「幼馴染だろうがなんだろうが、好きな人の隣に居る人は気に食わないもんよ」

『怖...もう百と一緒にいるのやめよ...』

「そんな事言わないでよー!私が寂しいからー!」





確かに、一瞬睨まれたと同時に殺気のようなものを感じたのも、可愛い笑顔を向けられても、心の底から可愛いと思えなかったのも、瑠璃ちゃんが言う「気に食わない」対象が私だったからなのか。

怖すぎる、そう思って百から距離をとるも、瑠璃ちゃんに「行かないでー」と抱き寄せられる。

今日は一緒にご飯食べよう!と、瑠璃ちゃんに引っ張られるまま、春原家にお邪魔することになった。



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