第2話






『そもそもさーさっちゃんは理想描き過ぎだと思うよ』

「というと?」

『だって百、好きな女の子に対してなんか、今は知らないけど小学校の時は業務連絡しか話せずに卒業しちゃう女々しいところあるしさ』

「えーかわいいー!」

『腕相撲だって私より弱いし』

「うっそだー!」

『のくせに、百のお姉ちゃんが知らない人につけられてるかもって時に、もう周りの事も先のことも見えなくなって突っ込んでく無謀な所あるし。結局それも勘違いだったから何もなくてよかったけどさー』

「なにそれ、イケメン過ぎない...?」

『...』





だめだ、こりゃ。
中学の後半頃から、多分急激に百の身長が伸びた頃から、なぜか百のモテ期が始まり、それは現在進行形で続いている。

皆かっこいいだの、優しいだの言うけど、そんなの上辺だけだ。
本当の百を知ったら、皆なーんだ、と勝手に冷めていくと思ったのに、そんなこともないらしい。

私が百の本性を伝えるも、さっちゃんはどんどんプラスに変換していく。





「春原君さ、この前私が図書室で高い所の本取るの手こずってたら、後ろからサッと「これ?」って取ってくれたし」

『...』

「みーちゃんなんて、教室から職員室まで皆のノート運んでたら、春原君が話掛けて来たらしくて、職員室行く所だったからついでにって、さりげなくノート全部持って行ってくれたんだって!」

『...』

「しかもさー、この前の体育見た!?男子がバレーやってた時!危うく飛んできたボールが田中さんに当たりそうだった所、目の前でボールキャッチしてくれたやつ!その後、春原君が悪いわけじゃないのに「ごめん!当たってない?」の一言は流石見た目も心もイケメン!」

『え、それだけ...?そんなの当たり前じゃない...?』

「この贅沢ものーーー!」





さっちゃんはかなりの幻想を百に抱いているようで、どれだけ百がカッコつけて、クラスの女子に接していたのかと思っていたけど、さっちゃんから出て来た内容はなんて事ない事ばかりで。

え、そんな事で惚れちゃうの...なんて思っていたら、思いっきり襟を掴まれ首を絞められる。

...おい。





『苦しいんですけど』

「結衣は春原君と一緒にいすぎて、感覚麻痺しちゃってるんだよ」

『どういうこと』

「春原君以外の男の子とずっと接してたら分かるよ」

『はぁ...』





そう言うもんかね、と思いながら、乱れた襟を整える。

隣を見るとさっちゃんは、はぁーーーー、とこれでもかと言うほど大きいため息をついた。





「私も春原君と幼馴染の人生過ごしたかったなー。サッカーの応援に駆けつけたり」

『...』

「放課後一緒に家に帰るついでにどっか寄って帰ったり」

「家族ぐるみで旅行行ったり」

『...』

「お互いの家でご飯食べたり、泊まったり」

『...』

「なんなら家を挟んで部屋は隣同士で、ベランダ越しにお互いの部屋を行ったり来たりして」

『...』

「一緒にお風呂入ったりしてさー」

『さすがにもう入ってないわ!!!』

「じゃあそれ以外はしてるってこと!?」





次々と出てくる、さっちゃんと百の幼馴染だったら物語を聞いていると、私さっちゃんに話したっけ?なんて思うぐらい、どんどん私と百の日常が出てくる。

黙って聞いていると、未だに一緒にお風呂に入っているという、よからぬ誤解が生まれそうな発言が出てきて、咄嗟に否定すると、またも襟を掴まれ首を絞められる。





「え、ガチなの...?」

『...風呂以外はね...』

「羨ましーーー!!!」





情緒不安定なようで、興奮したり、荒れたりと忙しそうなさっちゃんの手を払い除け、予鈴がなる前にトイレ行っとこ、と席を立った。




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