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・貴女side
「えー!なになに椎名君と良い感じなの?」
「もう声大きいよ!昨日部活終わるの待ってたら遅いからって送ってくれただけだよー!」
お互い隠す気もさらさら無い声のボリュームに、ため息が出る。
明らかに椎名に気がある女の子と、その友達。
あんなこと言ってるけど満更でもない彼女を見ていると嫌な感情が芽生えてくる。
そうだよ、椎名は相手が誰でも送ってくれるに決まってんじゃん。
嫉妬できる立場でもなんでも無いのに、心の中で悪態をつく。
そう言い聞かせても、椎名に気がある彼女は可愛くて、男子の好みを詰め込めた感じの子で、勝ち目が無いことにさらに自信を無くす。
『4限の体育、男子何やった?』
「バスケだったぜ」
放課後、誰もいなくなった教室で椎名と2人で日直の仕事をする。
黒板を消す椎名に声を掛けながら、私は日誌を書き終える。
『昨日、あの子と帰ったんだってね』
「あ?あの子って?」
『部活終わりに一緒に帰ったって話してたよ』
「あーまあな、帰り待っててくれてたらしくてよ、遅かったからな」
『ふーん』
椎名はなんてことないように答える。
脈がないと捉えていいのか。それとも鈍感なのか。
どちらにしてもやっぱり心のモヤモヤは晴れなくて。
『びっくりだねー、急に女子人気出ちゃって』
「なんだそれ」
『中学の時は猿とかガキとが言われるぐらいだったのにね』
「おいおい、馬鹿にしてんのか…」
『あの子もそうだし、別のクラスの女の子も言ってたよ、椎名君と付き合いたいって。彼女作りなよ、今の椎名ならすぐに出来るんじゃないの』
「何言ってんだよ」
『じゃ、私帰るね。また明日』
なに椎名にあたってんの私。
このモヤモヤした気持ちをどう発散したらいいのか分からず。
思わず思ってもいないことを言ってしまう。
このままここにいては涙が出てきそうで。
グッと堪えて荷物をまとめて席を立つ。
「待ってて、変だぞお前」
『離して』
「な、なに泣いてんだよ…」
教室を出ようとしたが叶わず。
腕を掴まれて足を止める。
それまで耐えられず、目に溜まっていた涙が一滴溢れ落ちる。
『…ったのに…』
「ん?」
『私の方が椎名の良いところ沢山知ってるし!椎名が良い所昔から知ってるし!あの子たちよりずっと昔から椎名のこと…っ!』
そこまで言ってハッとする。
さっきまで思ってもいないことを言ってしまったのに、今度はずっとずっと溜め込んでいたことを発散してしまった。
涙で目が曇り、椎名の表情も見れず、俯く。
『ご、ごめん!なんでもないっ』
「なあ、俺の話もして良いか」
思わず逃げ出そうとしても、椎名の私の手を握る力がさらに強まり、その場から動けずにいると、椎名がぽつりと話し始める。
「俺、お前が言うようにあの時はガキだったから、照れ臭くてなんも言えずに転校しちまったけどさ。俺の方が昔から如月のこと好きだった」
『え…?』
「俺なんかで良いなら、付き合ってくれよ」
『嘘…』
視線を上げ、椎名を見上げると、頬を染め私を見つめる彼と目が合う。
え、夢…?
「嘘じゃねーって!あん時貴澄にちょー冷やかされてたんだからな!あのハルにですら「お前如月のこと見過ぎだろ」とかバレてたし!」
『何それ、七瀬君の真似?』
「るせ!それだけ好きだったんだっつーこと。つーか返事…」
『私も好きだよ、椎名のこと』
「っしゃ!よろしくな!」
その言葉と同時に、私を抱きしめる椎名。
椎名の体格と、椎名の匂いが感じられ、一気に体温が彷彿する。
変わったところは沢山あっても、この無邪気な笑顔と、根っからの素直さはやっぱりこれっぽっちも変わっていない。
そんな椎名のことが、ずっとずっと昔から大好きなんだ。
さっきまであったモヤモヤはすっかり晴れて、私はこれからもさらに椎名に魅了されてしまうんだろうな、とその日の帰り、手を繋ぎながら家まで送ってくれた椎名を見ながら笑みが溢れた。
----------昔から.end
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