『ほんとに作っちゃったんだ…』

「おう!後輩も入って4人揃ったし、これでリレーにも出れるぜ」





休み時間、購買に向かっている時にたまたま椎名と鉢合わせをして、なんとなく話しながら一緒に向かう。

椎名が転入してきた日、中学ぶりだなと笑う椎名を見て、やっぱりあの時からの気持ちは衰えていないことに気付いてしまって。
それでも中学の時と変わらずに話せるのは、椎名のコミュ力なんだろうな。

なっちゃんから知り合いだったの?と驚かれたけど、ただ中学が一緒だっただけと答える。

転校してからも水泳はずっと続けていたという椎名。
風海高校でも水泳部に入る気満々な椎名に、うちには水泳部はないことを伝えると残念な素振りを見せたのは一瞬で。
なら作るしかねえな、と意気込んで、本当に作っちゃうあたり、無謀というか、遂行力があるというか。

リーダーシップがあって着いて行きたくなる感じ。ほんと変わらないな。





「そういや、あの時体調大丈夫だったか?」

『あの時?』

「ほら、俺が転校する時。体調悪くて休んでただろ?」





まさかあの時のことを話題に出してくるなんて、という戸惑いと。
まさかあの時のことを覚えてくれていたなんて、という嬉しさと。

椎名のせいだよ、なんて言えるはずもなく。





『あーうん、全然、ただの風邪。ごめんね、見送り出来なくて』

「いや、大丈夫だったんならいいんだけどよ。最後の日も様子おかしかったから」

『…』

「あの時俺さ、お前に言えなかったことがあって」

『え…?』

「椎名くーん!」





前を向いたまま歩きながらぽつりと溢す。

言えなかったことってなんだろう。
そう聞き返そうとすると、第三者の声が被る。

…クラスの子だ…。

明るくて社交的な椎名は、転入してまだ数日しか立っていないと言うのにも関わらず、すぐにクラスに打ち解けて。
男の子はもちろん、女の子とも仲良く話している姿をよく見かける。
…女子が積極的に話しかけに行ってるって言った方が正しいけど…。

中学の時は女子の中で一番仲が良いのは私!と自信を持って声を大にして言えたのに。
今はその自信がない。





「ね、椎名君水泳部作ったの?」

「おーまあな」

「私入ってあげよっか!泳げないけど!」

「泳げないんかい!」





まるで私が見えていないかのように割り込んで話しかける。
…まあいいけどさ。

教室でもよく囲まれている姿を思い出し、溜息を吐く。

そうだよね、かっこよくて優しくて運動神経も良くて。
そんなの女子がほっとく訳ないよね。

そんな見慣れた光景を眺めてその場を去る。





「あ!おい如月!」





椎名が戻ってきて嬉しいはずなのに、なんでこんなに胸がちくちくするんだろう。

一番仲の良い友達、そんな立場に甘んじていたのは私なのに。




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -