・貴女side



『もう馬鹿じゃないの!」』

「なっ、馬鹿じゃねえし!馬鹿っていう方が馬鹿なんだからな!」





中学生になって一番はじめに友達になったのは、悔しいけどこいつ。
その名も椎名旭。

よく鴫野や桐嶋とふざけ合っているのを見るけど、2人からも馬鹿だと言われている椎名はやっぱり馬鹿だと思う。

今だって家庭科の授業で、席が隣同士ペアになってクレープを作るという課題に取り組んでいる中、
砂糖と塩を入れ間違えるという典型的なことをしたり、勢いよく材料を混ぜすぎて溢したり、椎名と組むと碌なことがない、ほんと。





「でも食えんぞ!」

『えっ生だよ!?』





もう貸して、と椎名からボウルを奪い、新しく材料を作り直していると、失敗したクレープの素を食べ始める椎名。

やっぱ馬鹿じゃないの!?
唖然と見ていると椎名が私をジーッと見てニヤリと笑う。





「如月も食ってみろよ!」

『えっ?むぐ…』

「な?うまいだろ?」

『ほんとだ…』





どうせ捨てることになるんだから食っちまおうぜ、と笑う椎名と、なんだか2人だけで悪いことをしているみたいでドキッとしてしまう。
生のままのクレープの素なんて初めて食べたけれど、意外と美味しい…。

なんでも無謀な椎名と一緒にいると、なんだかんだ新しい発見があって少し楽しいのも事実で。

黒板を見ながら材料を確認するフリをして、椎名の横顔を見る。
…憎めない…。

一息溜息を零し、完成したクレープの素を焼き、フルーツとクリームを乗せて巻く。

少し歪な形だけど、まあいいか!





『よし、完成!』

「おー!すげー!食べていいか?」

『いいけど…』

「んめぇ!如月すげぇな!良い嫁になりそう!」

『ばっ、馬鹿じゃないの!』





そう、この笑顔に弱いんだ。

眩しい笑顔と、無意識に褒めてくる椎名にいつの間にか
友達以上の思いを抱えるなんて思ってもいなかった。




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