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・貴女side
『七瀬君、おはよう!』
「おはよう」
昨日鴫野君に言われたことが頭から離れず、家で悶々と過ごしていた。
お風呂に入る時に髪の毛を解くのがすごく名残惜しくて、お姉ちゃんに写真を撮ってもらった。
風呂上がり、そんな写真を見つめながらふと思う。
なんでこんなにも七瀬君を意識しているんだ…。
これも全部、鴫野君のせいなんだけどさ!
そんなことがあってから、今日七瀬君に会うのは少し緊張したけれど、七瀬君はいつもと変わらない飄々とした表情で席に座っている姿を見て、なんだかほっとする。
まぁ、そうだよね…。
『七瀬君って妹とかいる?』
「?いない。俺は一人っ子だ」
『あ、そうなんだ!じゃ、じゃあさ、えっと…美容師とか目指してたりする?』
「は?」
それでも気になることは沢山あって、いてもたってもいられず、可能性を考えながら七瀬君に質問をする。
一人っ子ということは妹どころか姉もいない。
美容師に関しては、何言ってんだお前?とでも言いたげな表情をする。
そ、そうだよね…。
『なんでもないの!じゃ、じゃあさ…』
「なんだ、さっきから…」
『またお願いしたら、ヘアセット、やってくれるかなー、って…へへ』
いくらなんでも、「じゃあ私のこと気になってたりする?」なんて聞けるわけないし、七瀬君がそんな気持ちがあるなんて想像もつかないし。
誤魔化すように次のお願いを取り付けるように聞いてみると、「暇だったらな」と微笑む七瀬君を見て心臓が高鳴る。
そうか、鴫野君がどうこう言ってたからとかではない。
七瀬君が私に気があるかも、と言われたからでもない。
私が、七瀬君のことが好きだから、気になってしまうんだ。
初めての恋心に気付き、どう接していいのかまだ戸惑っているところがあるけれど、
多少なりとも、七瀬君に嫌われてはいないという気持ちだけが私に安心感を与えてくれる。
だって嫌いだったら、話したり、ましてや髪の毛やってくれたりしないよね!?
無理矢理そう自分に言い聞かせる。
でも、いずれ鬱陶しいと思われたらどうしよう…。
『あ、じゃあこれ!』
「なんだこれは」
『お礼に受け取って!私のバイト先のクーポンなの』
気持ちばかりではあるけれど…
少しでも七瀬君に好かれようと思っての行動がクーポンだなんて、鴫野君が聞いて呆れそう…
そう思いながらも、財布に大量に入っていた私のバイト先であるカフェのクーポンを複数枚渡す。
七瀬君は若干戸惑いながらも受け取ってくれ鞄にしまう。
「これで買収する気だろ」
『そんなことないけど!?』
七瀬君は私の気持ちには一ミリも気付いていなさそうで、安心と複雑な気持ちが入り混じる。
手強いな…。
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