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・貴女side
『七瀬くん、何それ?』
「イワトビちゃんストラップだ」
隣の席の七瀬遙くん。
進級してから初めて同じクラスになって、進級式の日に座席表を見た時は女の子だと勘違いしてしまった事もあった。
いざ対面してみれば、端正な顔立ちにクールな表情。
イケメンという部類に入る彼は寡黙で何を考えているのか分かりずらい。
唯一知っている事と言えば、2年生になってから水泳部を作り、その上副部長だということ。
また同じ水泳部で同じクラスの橘真琴君と仲が良く、常に一緒にいる。
橘君はニコニコ愛想が良くて、話しやすい印象だけど、隣の席の七瀬君は正直話し掛けずらい。
というかグループワークでしか話した事がない。
グループワークですらあまり意見を言うタイプでは無く、周りの考えに同調するだけだけ。
よくぼーっと窓の外を見ている印象。
そんなクールで近付き難いイメージの七瀬くんだったが、何故だが最近必死に何かに取り組んでいる姿を度々見かける。
少し前までは紙に絵や文字を書いていると思ってたら、次はなにこれ、木彫り?
1度気になりだしてしまってはこの衝動を抑えることは出来ず、進級して数週間、初めて話し掛けて今に至る。
『え、イワトビちゃんストラップ...?』
「あぁ、入部特典だ」
『へぇ...』
話し掛けてみれば意外と普通に答えてくれた七瀬くん。
なんでも、水泳部の人数が足らず、入部してくれた人に渡す特典を自分たちで用意しているみたい。
「如月は部活入ってるのか?」
『ううん、私バイトしてるから部活出来るような時間ないんだよね』
「そうか」
まさかの七瀬くんから質問を返され、会話が続く事に驚きつつも、返答してみれば彼は少ししゅんとした表情を見せた。
...もしかして勧誘しようとしてくれた?
ごめん、お役に立てず。と思いながら、分かりやすい表情を見せる七瀬くんに何だかイメージと違う違和感を覚え、頬が緩む。
今まで私の名前知ってるのかすら怪しいと思ってたのに、一瞬で距離が少しだけ縮まった気がした。
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