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・貴女side
『っと、取れない…』
中学生になって新しい教科が増えた、その名も英語。
そんな初めての英語で早速課題が出た。
なんでも良いから英語の小説を読んで、1ページ訳すというもの。
英語の小説なんて持ってる訳ないし、図書室に借りに来たのは良いものの、広いし大きいし多い。
英字の文学書と書かれたエリアに来たが、棚の一番上にしかないみたいで。
近くに椅子や脚立がないか探してみたが、恐らくない。
…真琴連れて来ればよかった…。
一息溜息を吐き、背伸びをする。
しかしそれだけでは到底届きそうにない距離に、一度踵を地に着ける。
もう一度気合を入れ直し背伸びをすると、今度は右腕を必死に伸ばす。
「これか?」
『え?』
もう少しで届きそうだけど、そのあと少しが縮まらず、諦めようとした時
不意に私の手に重なるように大きな手が現れ、私の求めていた本が抜き取られた。
『うわっ』
「ほら」
後ろを振り返ると、そこには以前会った桐嶋先輩がいた。
しかも、かなりの至近距離で。
突然のことに驚いて思わず変な声で叫んでしまったが、桐嶋先輩は気にするそぶりを見せず、笑って本を渡して来れた。
なんだか、太陽みたいに笑う人。
「あれ?お前確か、この前郁弥達と一緒にいた…」
『はっ、はい!如月結衣です!5月からよろしくお願いします!』
「はは、こちらこそよろしくな」
まさかあのたった一回会っただけで、しかもあんなちょっとの時間だけだったのに覚えてくれていたことがとても嬉しくて。
思わず頬が上がってしまう。
「いつもそんなの読んでんのか?」
『あ、いえ…。英語の宿題で…』
「あー、原先の無茶振り課題か…」
そんなの、というのはおそらく今私が手に持っている、桐嶋先輩が取ってくれた本のことだろう。
こんなところで英語ができる見栄を張ってもしょうがないな、と素直に宿題だと答えると、桐嶋先輩が眉を下げて笑う。
そんな横顔から目が離せずにいると「それなら…」と本棚を見つめる桐嶋先輩。
「ほら、この児童文学の方が簡単だぞ。前に借りてた奴の書き込みが書いてあったりするしな」
『あ、ありがとうございます!」
「おう、後輩に優しくするのが先輩ってもんよ」
桐嶋先輩はそう言いながら笑うと、
ぽん、と私の頭に桐嶋先輩の大きな手が置かれ、心臓が高鳴る。
じゃあな、と図書館を立ち去る桐嶋先輩の背中から、目が離せずにいた。
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