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・凛side
「今回は市民大会ってことで、うちは希望者のみエントリーだが…」
「凛ちゃーん!」
3年になってから初めての大会。
つっても、市民大会だからそんなに緊張感はねえけど。
勿論俺はエントリーしてるし、岩鳶の奴らがエントリーしてるのも知っている。
どんな大会であろうと、ハル達には負けねえ。
大会前に部員を集めてミーティングをしていると、遠くの方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
凛ちゃんなんて呼ぶやつは1人しかいねえ。
案の定呼ばれた方を見ると、想像していた人物、渚が大きく手を振りながら歩いており、その隣にはハルも真琴も怜もいた。
ったく、空気読めよな…。俺にも部長っていう威厳があんだよ。
「…。とにかく、大会に慣れてねえ奴はこの機会に雰囲気を掴め。以上」
「はい!!」
部員達に解散を促し、一言ハルたちに挨拶を交わす。
…俺も行くか。
荷物を担ぎ、飲み物を買ってから向かおうとロビーへと向かう。
「今日の試合終わったら遊びに行こうよ」
おいおい、こんなところでナンパかよ。
自販機が見えてくると、ここまで聞こえてくる大きさで女子を口説く男の声。
しかもあいつ、観客じゃなくて選手じゃねえかよ。
市内大会と言えど試合が始まる前に、そんな下心で参加しているやつに苛立ちを覚える。
つーか自販機の前でやるなよ。
溜息を吐き他に自販機あったかな…とその場を去ろうとしたが、声を掛けられていた女子を見て唖然とする。
あのジャージ、岩鳶じゃねえか?
まさか、江!?
いや、違う。後ろ姿が江じゃねえ。
じゃあ誰だ…?
そういえば、江が新しいマネージャーが入ったって嬉々として報告してきたことを思い出す。
そうとなれば話が変わる。
見て見ぬふりをして去ろうとしていた足を止め、そいつらの方へと一歩踏み出す。
『遙先輩達はこれっっっっっっっっぽっちも弱くないし!むしろ負けて吠えずらかくのはそっちですけどね!?』
「あ?てめぇ調子乗ってんじゃねえぞ」
『ひえっ』
まさかの反撃の声が聞こえ、唖然とする。
いやあいつ、無謀すぎんだろ!?
逆上されるという頭がないアホ具合と、仲間が馬鹿にされて言われっぱなしではいない度胸強さを目の当たりにして、面白えやつと思いながら、手を出される前に急いで助けに入る。
喧嘩になったらやべえと思ったが、あいつらは俺のジャージを見ると目の色を変えて去っていく。
こいつは俺の顔を見ると素直に礼を言って、誰だこいつ?という表情を浮かべる。
俺は特にハルたちの知り合いだということも、江の兄貴だということにも触れず、客席まで彼女を送り、更衣室へと向かった。
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