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・貴女side
『うぅ…気持ち悪い…』
「大丈夫?結衣ちゃん」
『昨日から緊張で眠れなくて…』
「えーただの市民大会だし、結衣ちゃんは別に出ないじゃん!」
『大会にただも何もないんですよ…』
あの日、入部届を快く受け取ってくれた水泳部。
次の日から早速ジャージをもらって、部活にも参加した。
屋外プールだからまだこの時期は寒くて入れず、まずはプール掃除から始まり、その後は遙先輩や真琴先輩、渚先輩がかつて通っていたという岩鳶スイミングスクールを借りて泳ぎの練習。
練習を見ながら、江先輩に水泳のこと、マネージャーの仕事を教わる毎日。
そんな日々はあっという間に過ぎ去り、いよいよ私に取って初めての大会が訪れた。
昔から緊張しいな私は、行事の前になると緊張で何も手につかなくなってしまう。
自分が出ないとはいえ、初めての大会。雰囲気も何もわからない私に取っては、なんの大会だろうと関係ない。
緊張するものはする!
『ちょっと、飲み物買ってきます…』
「大丈夫?一緒に行こうか?」
『いえ…私のことは置いて行ってください…』
「なんか、少年漫画みたいなセリフ」
じゃ、先行ってるね!と去っていく先輩達の背中を見送る。
自販機、あるかな。
胃を押さえながら会場内を歩くと、赤い自販機が見え走って向かう。
大分緊張も収まってきた、よかった。
『あった!先輩達のも買っておこう』
「ねね、君どこの学校?」
『え?』
ペットボトルのお茶とお水とスポーツウォーター、各2本ずつ買って袋にしまい、客席に向かおうとする時に2人組の男の人に声を掛けられる。
もう…重いのに…。
『岩鳶ですけど…』
「岩鳶?知らねえな。なーんだ無名の弱小校か」
そう馬鹿にするように笑う二人組にムッとする。
ジャージを着ているあたり、きっと今日対戦するどこかのチームだろう。
水泳のことは詳しくないし、他の学校がどれくらい強いのかも、どこの学校が強いのかも全く知らないけど。
少なくともうちの学校が弱いなんて絶対に思わない。
それはここ数日だけだけど、先輩達の泳ぎを見ていたらわかる。
「まあいいや。今日の試合終わったら遊びに行こうよ」
「携帯持ってる?」
『…じゃないし…』
「は?なに?」
『遙先輩達はこれっっっっっっっっぽっちも弱くないし!むしろ負けて吠えずらかくのはそっちですけどね!?』
「あ?てめぇ調子乗ってんじゃねえぞ」
『ひえっ』
このまま言われっぱなしもムカつくし、言いたいことを言ってやったら逆上させてしまった。
怖っ、殴られる!
咄嗟に目を瞑り、全身に力を込める。
「なにやってんだよ、試合前に」
「あ?誰だてめぇ、お前には関係ねえだろ」
「試合会場でナンパする暇あんなら練習しろよ」
「おま、鮫柄の…」
「くそ、行くぞ」
想像していた衝撃は来ず、目を開けると声を掛けてきた2人の他に、赤い髪をした人が1人増えている。
もしかして、助けてくれた…?
「大丈夫か?」
『は、はい!ありがとうございました!』
「それ、客席の入り口まで持ってやるよ」
『え?いいですいいです!重いので!!』
「だから持ってやるって言ってんだよ…」
そういうと赤髪の人は私の手から奪い去るように、ペットボトルの入った袋を持ってくれた。
その人の後ろをくっつくように着いていく。
さ、め、づ、か。
さめづか高校の人なんだ…。
彼のジャージに書かれた文字を見て、学校が判明する。
すごく大人っぽいし、優しいし、大人の人かと思った…。
この人も、今日泳ぐってことだよね…、見たいなぁ。
「市内大会レベルだと、ああいうチャラついた奴がいるから気をつけろよ」
『はい…ありがとうございます…』
客席の入り口まで来ると、彼は私に袋を渡しながらそう言ってくれる。
その時しっかり顔を見たけど、中性的な顔立ちで、めちゃくちゃカッコいい…。
けど…誰かに似てる…?
見惚れているのか、誰に似ているかの答え合わせをしているのか分からないけど、
去っていく彼の後ろ姿から目が離せずにいた。
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