第1話
・貴女side
「ねぇ聞いてよー!トイレから帰ってくる時、倉持先輩達とすれ違っちゃってさぁー!」
お昼休み、クラスで仲の良い友人グループの一人がトイレから戻ってきたと思ったら、突如話題を切り出してくる。
恋愛小説や少女漫画だったら、開口一番のこのセリフ。
学年で有名な、大人気グループとすれ違った事を嬉々として離しているように聞こえるだろう。
けど残念ながらこの場合は違う、むしろ逆。
…いや、有名であることは間違ってないだろうけど。
何を隠そう、私の通うこの中学校で知らない人はいない、有名な不良グループだからだ。
「もうほんと怖い!また他校と喧嘩したらしいしさぁ」
「退学とかに何ないのかなぁ、何でうちらが学校で常に気を張ってなきゃいけないの」
「あのリーダーみたいな人でしょ、倉持先輩って。喧嘩ちょー強いらしいよ」
「気に食わない奴は女子相手でもお構い無しだって」
「うわ何それこわっ」
3人はそんな不良グループの先輩たちの話題で大盛り上がり。
私は先程購買で買ってきた焼きそばパンをもそもそと食べながら、会話を右から左へと流し聞く。
「ね!結衣!」
『え?』
まさか話を振られるとは思っておらず、ましてや聞いてなかったなんて言えない。
しかし私の表情を見て察した彼女らは大きく溜息を吐く。
「もー危機感無さすぎ!」
「気を付けないと、廊下とかでちょっとでも肩ぶつかったりしたら大変だよ!?」
『はぁ…』
「ほんとに心配…」
「そういえば結衣って全然話に入ってこないよね、怖くないの?」
『うーん…、だって倉持先輩ってそんなに怖い人なの?』
「はぁ!?当たり前じゃん!喧嘩に暴行!女子に対してもだよ!?」
「酒やタバコにも手出してるって言うし!見知らぬサラリーマン殴ってお金奪ったとかも聞いたことある!」
確かに。彼女らの話を聞いて怖くないと思う人なんていない。
中学生からそんな悪行を働いてる人なんか、生涯絶対関わりたくない。
でも、彼女たちが言っていることは全て噂でしか聞いた事がない。
いや、もちろん私も最初から
そんな噂信じないよー!実際にそういう現場見た事無いからわかんないじゃん!
とか甘ったれた事を言えるほど、できた人間じゃない。
私が入学してすぐそんな噂が出回っており、ただの噂だろうが何だろうが、火のないところに煙は立たない。
生後わずか13年で、そんな怖い人種を避けて通りたいと思うのは人間の本能だと思う。
けれど倉持先輩に対して、そういう怖い感情を持たないのには、
彼女らの話に同意しないのは
理由があった。
→