第1話


・貴女side


大蝦夷農業高校、通称エゾノー。
農業科、酪農家、食品科、農業土木工、森林科の5科があり、敷地の外周が20キロと全国屈指の敷地面積であると言われている。らしい。

ほんの三ヶ月ほど前に新たな門出を迎え、札幌市の普通科高校に入学したはずなのに。
高校では珍しいセーラー服に身を包み、日々勉学に励んでいたというのに…それは嘘だけど。やっと高校生活に慣れ始めた頃夏休みに入り、宿題やらなきゃ、休み伸びないかなぁ、だけど友達には早く会いたい、なんて思ってた矢先に。


どうして私はここにいる。





『ここが今日から新しく通う学校かぁ』





札幌に比べたらだいぶ田舎の山の中。

でっか。

それが第一印象だった。





『えーっと、ここから入っていいのかな』





入口らしき所で校内案内図を見つける。
…なに、この波線みたいなのは。

まあいいか、入れば分かるよね。
そう考え一歩踏み出そうとした時。





『えっ防疫!?感染症!?』





すぐ横に“防疫対策のため関係者以外場内及び畜舎内の立ち入り禁止”の看板が。

何よこれ…





「どうかしましたかーって、その制服うちの生徒だろ?こんな時間に何してんだ?授業中だろ」

『あ、すみません…私今日転入してきたんですけど、ここから入れないんですか?』

「あーお前が例の。いいよいいよこの消石灰で足元消毒すりゃあな」





恐らくこの学校の先生だろう。
足元に撒かれていた白い粉に軽く足をつける。





「消毒しないで勝手に入られるとね、持ち込まれた病気によっちゃ家畜皆殺しになっちゃうから」

『…』





さらっと言われたけどそれはかなりの大問題では!?
適当に踏んでいた消石灰に足をザクザクと念入りに踏み入れる。





「いやーしかし転入初日から遅刻とは大物だねー」

『はは…すんません…』





ゲラゲラと笑いながらついてこいと言わんばかりに前を歩く先生。

…緩いな。





「君も一般家庭の子だっけ?何科?」

『あ、はい。酪農科学科です…って、も?』

「酪農かぁ、同じ学科に君と同じ一般家庭の子いるから、安心しな」

『はぁ』





安心って、別に不安なんてないけど。
逆に一般家庭の子じゃない家庭って何!?

先生の話を右から左へと聞き流す。


きょろきょろ周りを見ながら歩いているとどこもかしこも家畜だらけ。
牛、馬、豚、鶏。

すごいなあ、どんな授業やってんだろ。


ちらりと牛舎を覗くと生徒数人が先生を囲っている。
そっか、今授業中か。


のんきに考えながら先生に置いてかれると後をついていこうとした瞬間。





『え』





ぶしゅっと目の前に赤い液体が飛ぶ。

何事かとそちらに目を向けると、先ほどの生徒たちが何やら騒ぎながら牛を囲んで大きな鋏を振りかざしている。





何かの間違いだろうと反対側に目を向けると、大きな包丁が鶏を捉えていた。





『!?』

「おーい、何してんだ置いてくぞー」

『あ、あ、あの、あれらはなにを…』

「んー、あぁ牛の角切りと鶏の解剖だな」

『は、はは…この学校はそんなの授業に取り入れてる学科があるんすね…えぐ…』

「なぁーに言ってんの、君が入った酪農で取り扱ってるよ」





面白れぇ冗談言うなあと豪快に笑って先を行く先生。


…………。

…………????





そ、そんなの聞いてなあああああああああい!!!





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