第3球
・貴女side
「宮〜帰るぞ」
ある日の部活帰り。
私と大堀、そして秋本は電車通学なため、よく一緒に駅まで帰っている。
宮田は自転車通学だけど、通り道ってことで、部活帰りはほぼ決まって4人での下校だ。
「あーまじ今日も疲れた」
「本当疲れたな」
「よっこらせっと」
宮田が駐輪場から自転車を持ってくると、私は荷台に座り、大堀と秋本は重たいエナメルバッグを前かごの上と私が座ってる荷台の後ろに乗せる。
「次の電車何分?」
「25分」
「お、じゃあこのまま普通に歩けばちょうど乗れる時間じゃん」
「電車の待ち時間って地味に損した気分になるよな」
「宮が自転車通学で良かったなぁ、駅まで荷物置けるし」
「歩かなくてすむし」
そういいながら宮田の背中に顔を付ける。
あ〜宮田いい匂い、とても部活後の男子とは思えない。
ほんと、部活後に20分の徒歩が無くなるんだから宮田がいて良かった。
「あ、そういやあそこの駄菓子屋かき氷始めたらしいから今度行こうぜ」
「いーねー」
駄菓子屋の前を通り過ぎ、そんな話をしているとスーっとなんとなく、自転車のスピードが速くなった気がした。
「イチゴ食べたい」
「定番だな!」
「私コーラ!」
「駄菓子屋にあるかぁ?」
「俺ブルーハワイ…ッ」
「俺みぞれ」
「渋い…なっ」
なんて、食べたいかき氷の話題が進む中。
やっぱり、気のせいなんかじゃない。
その証拠に、先ほどまでのんびり隣を歩いていた大堀と秋本が息を切らしながら走っている。
「…宮ッ」
「なに」
「はっ」
「速くねぇ!?」
「ちょっ怖い!」
「そうかな」
「「速いって!!」
シャーっと自転車は音を鳴らしながら、さらに速度が上がる。
なに!!怖い!!落ちる!!
前のめりになる宮田のワイシャツを必死に掴む。
すると、ほんの10分程で駅に着き踏切がカンカンと鳴る。
「…おい、1本前の電車が今出てったぞ」
「あ…あと15分待つのかよ、つーか丁度いい時間に駅着くんじゃなかったっけ?」
大堀と秋本は制服姿なのに汗を流し、肩で息をしている。
私も振り落とされそうなスピードと恐怖で、変な汗が出てきている。
「ほら如月、着いたよ」
「あ、ウン…ホントダ」
普段見たことのない宮田の笑顔を向けられ、カタコトになりながらスッと荷台から降りる。
「大堀と秋本も、荷物、忘れんなよ」
そう言いながら2人にエナメルを渡す宮田の顔も、じゃあな、と帰り際に見せた顔も、やはり普段の宮田からは想像も出来ない笑顔だった。
それを2人も感じ取ったのか、ゼーゼー言いながら宮田の後ろ姿を見つめる。
「明日『いつも後ろ乗せてくれてありがとう』って言えよ」
「…うん、あんた達も『いつも荷物ありがとう』って言いなよ」
「…おう」
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