第18球
・宮田side
「そういや先輩でゲーム得意な人いるって聞いたことある」
「知ってる」
「誰だよ」
「この前のオフの日にゲーセンで見かけたんだけど…」
日野ちゃんの圧に負け、大量にカゴに入った洗濯物を干しながら、そう言えば、と秋元が口を開く。
俺も以前まで噂で聞いた事がある程度だったけど、目の当たりにしてしまったつい先日の出来事を思いだす。
その日は野球部がオフの日で、俺はたまたま用があって電車で出かけた帰り道、その人は駅前のゲーセンで、野球でも見た事ない真剣な顔でクレーンゲームの前を陣取っていた。
その名も藤岡明先輩。
趣味はクレーンゲーム制覇!らしい。
日頃は物腰も柔らかく、常にニコニコしている優しいイメージだったが…
「その日は狂気じみていたのでそっとしておいた」
「あ…うん」
「いやでも今日に限っては大堀の救世主になってくれんじゃねーの!?」
「そ…そうだ!」
「藤岡先輩に大堀のパンツ取ってもらおう!」
「よーし隣の先輩達の部屋行くぞ!」
「ちょっと」
秋元の提案を元に、早速先輩達の部屋に向かおうとすると、またもさっきと同じような、いや、さっきよりも何倍も恐ろしい圧を感じる。
恐る恐る振り返ると、そこには笑顔で額に青筋を浮かべた日野ちゃんが、拳を握って立っていた。
「そこ3人並べ」
「「「スンマセンすぐ干します」」」
日野ちゃんの本気の憤りを感じ、黙々と洗濯物を干し、俺らは自分の部屋を出て、隣の竹間と書かれた先輩達の部屋へと来た。
「失礼シャーっす」
「先パ…あっ大堀!?」
「なんだ、お前らまでどうした?」
中に入ると今まで話題の中心にいた大堀が目の前にいて戸惑いの声をあげるが、本題を秋元が伝える。
「藤岡先輩にゲームコーナーで大堀のパンツ取ってもらおうかと」
「さっき行ってきた」
「早い」
「僕を誰だと思ってんの。一発で取ってきてあげたから安心してよ」
「マ…マスタァァー!!!」
きっと他の人も同じ情報を入手していたらしく、俺たちが頼みに行った頃には既に取得済みであった大堀のパンツ。
やっぱり藤岡先輩はゲームの天才らしく、余裕な表情を見せた。
「サイズはフリーしかなかったし、種類も1つだったから、とりあえず2個ほど取っといた」
「おー」
「な!大堀、カプセル開いたか?」
「え、なんデスカ?」
「お前がどうした!鼻血!!」
パンツはどうやらカプセルに入っていたみたいで、それを開けられたのか大堀に尋ねてみると、大堀は顔を真っ赤にして、鼻からは鼻血がたらーっと垂れていた。
「いやっあのっ、開いたのは開いたんスけど、これっ、あの…セクシーすぎて履けねーっス…」
ボソボソと小声で話す大堀に近づいてみると、ちらっとパンツを開いて見せる大堀。
しかしそのパンツは想像をしていたような男物ではなく、まさかのスケスケな紐パンで、その場にいた全員が顔を真っ赤にする。
そして、恐らく今後も見る機会はあるのかどうか怪しいパンツに全員で手を合わせ、一旦拝んでおいた。
しかし一体この紐パンをどうすれば良いのか、一同悩んで数分経ったところ、先ほどまで顔を真っ赤にしていた大堀が、キョトンとした表情で「あ」と声を漏らす。
「これはパンツだから履いてやらなきゃ可哀想だ」
「うん?」
「けど俺は男だからはみ出ちゃうし履けねーだろ?」
「そ、そうだな…」
「なら履くやつにあげるのが一番だろ?」
「誰にあげんだよ」
「ま、まさか…」
「待て大堀ぃ!」
こいつが何か思いつく時はろくなことがない。
大堀の話を聞いて、その場にいる全員がまさかと思った時には、既に大堀はこの部屋から飛び出し、走り去っていた。
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