第11球
・貴女side
「と、言うわけでよろしく頼む」
「えぇぇ…嫌ですよぉ」
「大堀ちゃんの学力と集中力じゃ今更死に物狂いで勉強しろって言ったところで出来るわけがないのよ」
「ぱるぱる先輩酷い!!」
昼休み残り10分を告げるチャイムが鳴り、次の授業の教科書を出そうと机の中を漁っていると、廊下から大堀のうめき声と野球部の先輩達の話声が聞こえてきた。
その先輩の声は教室を通り過ぎることなく、私達の教室に入って来たと思えば私の目の前で止まった。
「私にもこいつの頭はどうにもできません」
「そこを何とか頼むよ」
「同じクラスで見張りもしつつ頭も良くて頼めるのは結衣ちゃんしかいないのよ」
「如月なんかに頼まなくても俺は自力で出来ます!!」
「…だそうですよ」
「どの口が言ってんだお前は!!」
アホが何かムカつく事をぬかしたな、と思えば即座に大堀の頭に飛んでくるキャプテンの拳。
木村先輩に羽交い締めされ、石橋先輩の腕で頭を下げられ、ぱるぱる先輩に耳元で「お願いしますでしょ?」と呟かれた大堀は、涙目でへたへたと床に倒れこみながら「お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛す゛っ゛…う゛ぅ゛っ゛」と頭を下げた。
いやもう何か私がいじめてるみたいじゃないか、やめておくれよ。
そうは言ってももうすぐ授業も始まるし、先輩にもこんなに頼まれてしまったら断りずらい上にこれ以上迷惑もかけられない。
なにより何だかんだ言って大堀は野球部にとってとても大事な戦力である。
そんな彼が夏合宿に参加できないというのも実に惜しい。
しかたない、今日の放課後までの少しの時間だ。
「…わかりました。」
「おお!助かる、ありがとな」
そういうと先輩は私にぐしゃぐしゃのプリント数枚を預け教室を出て行った。
…?なんだこれ。
プリントのしわを伸ばしながらよく見ると『大堀広揮』と何ともダイナミックにでかでかと書かれた名前の下には、先日行われた期末テストの問題。そして他のプリントは恐らく補修や追試のプリントだろう。
全てにおいてぺけばっかだし合格ラインに届きそうもない点数。
こいつ…まじか。
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