第9球
・貴女side
「あら結衣ちゃん」
「ぱるぱる先輩?」
お昼休みに友人と食堂で昼食を食べ、帰りに教室へ戻ろうと廊下を歩いていたところで名前を呼ばれ振り返る。
と、そこには男性なのに笑顔が素敵な野球部の先輩の姿。
「ちょっ、結衣!先輩にそんな呼び方…」
一緒にいた友人に焦りながらそんなことを言われる。
…?
「ああ、名前のこと?これはそう呼んでって言われたから…。ね、春雄せんp」
「ぱるぱる」
「春雄s」
「ぱるぱる」
そんなやり取りを終え、ね?と友人の方を見ると、ああ…と納得した様子。
彼女の所属部活はサッカー部であるが故、確かに上下関係が厳しいイメージがある。
かと言って野球部の上下関係が無いということではない。
…ぱるぱる先輩が特殊なだけだ。
「大堀ちゃんいるかしら?」
「大堀なら教室だと思いますよ、呼んできましょうか?」
「お願いしていい?」
先輩は大堀を探しているらしく、居場所を聞かれる。
彼はいつもの3人でお昼を食べているはずだからいつものように教室だろう。
途中で職員室へ寄っていくと言った友人と別れ、ぱるぱる先輩と共に私たちの教室である1年4組へ向かう。
「大堀に何か用事ですか?」
「そうね〜、ちょっと問題がね」
「また何かやったんですか?あー、この間部活の時ぱるぱる先輩のコップの中にカブトムシ落っことしたやつですか?ほんと馬鹿ですよね、飲みかけだから洗ったらバレるとか言って放置してましたけどそりゃバレますよね〜」
「はあ?あいつそんなことしてたのかよ」
先日起こったカブトムシ事件。
大堀がカブトムシをぱるぱる先輩のコップに落とした時は吹き出しそうになる笑いを必死に抑えながら謝れと叱ったけれど、大堀は殺される、とか言いながら証拠隠滅。
今となれば笑いごとだが、まずぱるぱる先輩だったらそんな怒らないと思うけどなあ。
そんなことを思い出し笑いながら、隣を歩くぱるぱる先輩に話す。
するといつもは温厚で優しい先輩からは考えられない、見たことのない表情を見た。
そして野太い声に怒りに満ちた空気。
え、何怖いぱるぱる先輩怖い。
そんな風に思っていると、すぐいつものようなニコニコ顔になる。
き、気のせいだよね…さっきのぱるぱる先輩は私の幻覚だよね、だって今はこんなに笑顔なんだもの。
「あいつ後でシメよ((ボソ」
き、聞いてません、私は何も聞こえてません…
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