看病






「今日成宮くん休みだって〜」

「風邪らしいよ」

「え〜…大丈夫かなぁ…」





私達の学校で知らない人はいないと言われる、都のプリンス成宮鳴が風邪でダウンしたらしい。

そんなことがクラス中、いや、きっと学校中で話題になっているであろう。

…主に女子の中でだが。



そんなことを耳にしながら私の胸は少なからずモヤモヤしていた。


何故、彼女である私より他の女の子の方が情報が早いのか。




イライラとモヤモヤが混ざった感情を持ったまま、私は学校が終わるのを待った。









ピンポーン

白いレトロな外観の家のインターホンが鳴る。


ガタガタと物音が聞こえ少し待つと、部屋着姿のマスクをした
プリンスとは似ても似つかない彼が現れた。





「はい、って…え!?結衣!?」

「うわ、顔真っ赤」





「ちょっと何でいるの!?」なんて、わたわたしている鳴を無視して家にあがる。

数回来たことのある間取り図を記憶に、鳴の部屋である扉を開ける。





「ちょと、待って。」





部屋に入ろうとした私を、鳴に腕を掴まれたことによって阻止される。





「なに?」

「こっちのセリフなんだけど!なんでいる!?」

「『鳴ちゃん風邪だって〜かわいそう〜』ってクラスの子たちが話してたから、そんな可哀想な鳴ちゃんの彼女がお見舞いに来てあげたの、感謝してよね可哀想な鳴ちゃん」





少し皮肉を込めた言い方に鳴の頬がピクリと上がる。





「何怒ってんのさ」

「怒ってたら来てないよ」

「それもそうだけどさ〜」





はぁ、と一息吐きながら部屋に入る鳴の後ろに続く。





「何で連絡しなかったの?」

「え?」

「鳴のことだから、『お見舞い来てよ〜』ってすぐ電話してきそうなのに」

「あはは〜、そーゆうことねぇ」





にやにやとベッドに腰を掛けながら何か分かったように言うこいつ。

むかつくんですけど殴っていいかな。





「拗ねてるんだ!」

「は?鳴じゃないんだから」

「んふふ〜、結衣が知らない俺のこと、他の女子が知ってたからいじけてるんだ。
俺ってば愛されてるう〜」





鈍いとも鋭いとも言えないただの野球馬鹿の鳴に図星をつかれ、ドキリとした上に少し、いやかなりむかついた。





「もういい、帰る!鳴なんか風邪こじらしてしばらく野球できなくなれ!」

「リアルで地味なこと言わないで!」





鳴の家に来る途中で寄ったスーパーの食品が入ったビニール袋を床に置き、再び廊下に出ようと振り返ると、温かいものが背中に触れる。

後ろを向くと座ったままの鳴が私の背中に頭を付けたまま腕をお腹に回した。





「結衣に言ったらこうやって看病に来てくれると思たから、うれしいけど好きな人には移したくないんだよ」

「…じゃあ離してよ、移っちゃうじゃん」

「でも来られたら、目の前にいたら離したくないんだもん」

「なにそれ」





いつもの、少し子供な鳴に笑みがこぼれる。

背中から伝わる温もりが、熱があるせいか、いつもより暑く感じる。





「…お腹すいた」

「ときめきを返せ」

「それ、俺に何か作ってくれるんでしょ?」





指さす方には先ほど買ってきたスーパーの袋。





「わかったよ、作ってきてあげるから」





そう言うと組んでいた腕を放す。
それに続いて私もレジ袋を持ち部屋を出る。





「あ、お粥はやめてね。あれ味しないから好きじゃない」

「出たわがままプリンス…!風邪の時はお粥でしょ!?」

「定番だねぇ〜」

「お粥の素買ってきちゃったよ…何が食べたいの?」

「アイス!」

「それは食後!」





けち、なんて拗ねてる鳴にため息を吐きながら、ならうどんでも作ってやるか、と再びキッチンへと向かう。

お肉あったら使わせてもらおう。食欲もありそうだし、だいぶ元気になってるし、肉うどんにでもすれば文句はいわないだろう。





「鳴〜出来たよ」

「あっ!肉!」

「食べたかったの?」

「スポーツ選手には欠かせないからね、これなら将来プロ野球選手の奥さんになっても安心だね!」

「プロ野球選手?誰の事だろ、御幸くん?」

「ちがう!!俺しかいないじゃん!!一也と浮気すんなし!」

「鳴は彼女より先に他の女の子に連絡してるくせに」





そう言うと、言い返せなくなかったのかうどんに食いつく。
おいし〜なんて言いながら、機嫌をうかがうように。

…別に怒ってもいないけど。





「ごちそーさまでした!」

「はい、じゃあアイスどーぞ」





綺麗にたいらげられた器を下げ、大好物のアイスを差し出す。

すると年齢不相応な無邪気顔でアイスを食べ始める。


空いた食器を片そうと立ちあがると、名前を呼ばれ腕を引っ張られた。





「ちょっ、あぶな…」





倒れそうになる体と、落としそうになる食器を気にしていると
不意に唇に温かい感触。…の後に冷たいものが口の中に流れてくる。





「んっ…、ちょっと、鳴!!」





目の前にある無駄に整った顔立ちの犯人は楽しそうに顔を緩める。





「看病の後のキス、これも定番?」

「バッカじゃないの」

「他の女の子にはメールもするし話もするけど、こんなことするの結衣だけだし、したいと思うのも結衣だけだよ」





こんなかっこよさげなセリフを言ってる割に、鳴の手は服の中へと忍び込んでくる。





「それは風邪治ってから」

「ちぇ〜」

「じゃあ私帰るね、お大事に」

「うん、気を付けて」





家を出て帰路につくと再び私を呼ぶ声がする。

顔を上げると部屋から顔を出す鳴。





「さっきのちゅーで風邪移っちゃてたらごめんね〜!けど大好きな俺の菌が体内を巡り回ってるって事だから別にいいよね!」

「さっさと寝ろ!!」





馬鹿な事を大声で言ってる鳴に一喝し、早歩きで道を進む。




…メールは少し自重してもらいたいが、呆れるぐらい鳴が私のことを好いていてくれるのはわかるから。
大目に見てあげよう。

そんなことを考えながら、先ほど鳴に買って行ってあげたアイスを求めスーパーへと向かった。




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