7


・貴女side



『あの、どなた様で…?』

「いやぁ、わりーわりー」





いくら失礼発言をしてきて不快な思いをしたからといって、相手は先輩。
下手なこと言っていじめられたくない。
なんて思いながら恐る恐る声を掛ける。

当の本人は、沢村の17点と書かれた答案用紙を見ながら「ほんと、どんぐりの背比べだわ」とか言いながら、目に浮かべた涙を拭う。
本当に、何がそこまで面白いのかわからないし、何度も言いますが初対面なんですけど。





『なにこの人、むかつくんですけど…』

「ん?」

「あ。」





仮にも先輩、仮にも先輩と頭で何度も唱える。
こっちが大人になって下手に出てやろうと思っていたのに、私はどうやら大人になれなかった。
思ったことがポロリと溢れてしまい、咄嗟に口を噤む。

ボソっと言っただけだし、聞こえていないよね
なんて淡い期待を込めて、もうボロは出さないようにと決心した時。





『いえ、なにも…』

「だよな!こいつマジでむかつくよな!!!」

『ちょ、ほんとに黙ろうか』





相変わらず地獄耳で馬鹿で空気の読めない三拍子が揃った沢村が余計なところで乗ってくる…。
ふざけんなよ…!





「まぁいーや。これ、確かに渡したからな。」

「あ、はい。ありがとうございます」


「じゃーな」





しかし先輩は気にした素振りも見せず、金丸に練習試合日程表と書かれた紙を渡すと、そのまま教室から出て行こうと歩き進める。
良かった、入学早々先輩に目を付けられるという波乱にならずに済んだ。
なんて安堵の息を吐きながら、後ろ向きのまま手を振る先輩の姿を見つめる。

イケメンってほんとにどんな姿でも絵になるな、なんて呑気に考えていると
先輩はピタリと歩みを止める。

どうしたんだろうと何気なく見つめると、先輩が後ろをむいたまま、サッと制服のポケットから何かを出す。
そこには見覚えのある透明のケースに、キューピーちゃんのキーホルダーが付いた





『あっ私のケータイ!』

「にひひっ」

『ちょっ!』





私が声を上げると同時に振り返る先輩の顔は、まぁ楽しそうに笑ういたずらが成功したクソガキだった。
…いやクソガキはさすがに怒られる。

なんて一ミリぐらい心の中で反省しつつ、私は咄嗟に携帯へと手を伸ばすが、その手は空を切る。
そしてそのまま教室を出ていく先輩を追いかけようとするが、先輩と入れ違いに先生が入ってきて、チャイム鳴るぞ、と止められる。
そのうちに先輩の後ろ姿がどんどん小さくなっていくが、先生のせいで見送ることしか出来ず。


え、ちょっと待ってよ。


ほんっとうになんなのあいつ!!!?




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