外に出ると青々とした空。突き刺すような日差しに思わず手を翳しながら、最寄り駅までの道を歩く。
歩きながら、昨夜のやり取りを胸の内で反芻させた。
「文献が……文献が見つからないよう……」
電話越しに聞こえたその声はしょぼくれたような参ったような、どちらとも滲ませた色だった。三つばかり歳上の彼女は相変わらずその年齢差を感じさせない口調で、図書館のアホ、と呟く。
かい摘むと大学のレポート課題に参考にしなければならない文献が一冊だけ、大学内だけでなく幾らか足を伸ばしてみた図書館にも見当たらなかったらしい。夏期休暇自体はまだ折り返しに差し掛かるより手前なので時間がないわけではないが、やる気があるうちにやってしまいたいのに、と情けなく呟き続ける彼女を宥める。
どうともない内容でも、彼女の声で紡がれると耳を傾けてしまいたくなる。馬鹿馬鹿しいとどこか客観的に見ている自分が呆れているが、正すつもりがないというのが正直なところだ。
その程度には彼女に――なまえに、入れ込んでしまっている。
県外から取り寄せてもらうしかないかな、と溜め息混じりの言葉にちなみに、と口を挟む。
「文献のタイトルは何と言うんだ?」
「えーっとね――」
返ってきた言葉の並びは、以前に此処別宅の書斎で目にした覚えのあるものだった。その旨に次いで貸し出そうかと申すと、耳元ですっとんきょうな声が上がる。少しばかり、耳から手元を離した。
「な、なんで征十郎くんがそんなの持ってるのっ?!」
「僕の、というわけでもないよ。おそらく父のだろうけれど、好きに触っていいとは言われているからね。困っているなまえに貸し出すくらい、問題ないだろう」
「ありがとうございます……うう、助かった……本当に助かったよ……っ」
電波のその向こうでは、目の前にいるわけでもない僕に向かって大袈裟に頭でも下げているのだろう。容易にその様が浮かんで、少しだけ笑いたくなった。
「明日の予定は?」
「図書館散策しようと思ってたから、たった今空きましたっ」
「それなら早いうちに貸した方がいいだろう。なまえの家まで持っていくよ」
最近お互いのスケジュール上たまに電話やメールで連絡を取る程度だったのだ。そろそろ会いに行ってもいいだろう。
いいだろうというか、ただ会いに行きたいだけだと言ったら――なまえは笑うだろうか。
「えっ、貸してもらう上に持ってきてもらうのはさすがに申し訳ないよ! 私が征十郎くんのとこまで行くから」
「僕がなまえの家に行きたいだけだから気にすることはない」
「ううん、そんな素敵なお家じゃないんだけどなあ……」
ワンルームだし、という呟きからはやはり笑みが滲み出していた。口調に比べ少しだけ穏やかに思える、その笑み方。
三つばかりの歳の差をあまり感じさせない、屈託のない彼女の声や口調や――見えないけれど容易に浮かぶ表情も、僕にはない美点と言えるだろう。
そしてだからこそ客観的に見れば多少馬鹿馬鹿しいくらいには入れ込んでいる、のだろう。
この、僕が。
乗り換える駅構内の小さな洋菓子店へと立ち入る。なまえの大学の最寄り駅であるこの駅には、彼女のお気に入りの店が多数存在するのだ。勿論、この洋菓子店も。
温い空気が充満している駅構内から切り離されたように涼しい店内でショーケースに鎮座されたケーキを眺める。色とりどりに並んだそれらから、はしゃいだ彼女の姿を連想して少しばかり頬が緩んだ。
「失礼、持ち帰りで頼みたいのですが――」
口元を引き締めショーケース越しに佇む店員に声をかける。
「征十郎くんっ!」
「なまえ……?」
目当ての駅に着き改札を抜けると、自分よりも一回りも二回りも小さい彼女が駆け寄ってくる。ワンピースから伸びた白い脚が眩しい。
空いている方の腕にじゃれついてくる姿はやはり、三つも上には見えない。
「こんなに暑いのに、待っていたのか」
「だってね、久しぶりでしょ? 早く会いたくって」
待ちきれなくて、とはにかむ頬は暑さのせいかそうでないのかうっすらと紅潮している。柔らかいそこへと手を滑らせたくなり、しかし生憎両手共に塞がっていることに笑ってしまった。
歩き出しながら、彼女がわざとらしくむっとした声色で言葉を紡ぐ。
「また子供っぽいって思ったでしょ、今」
「……いや、違うよ」
君の美点が、とてもとても。
フルーツタルトを
2ピース
(愛しくてたまらないと、思ったんだ)________________________________
ちゃつき様(
アンテナф)より、誕生日のお祝いとして頂きました(^ー^)
ありがとうございます!!!
リクエストの赤司×年上彼女…!
この子愛らしすぎます(真顔)
甘やかし赤司様キュ=(*´∀`*)⇒ン!!
これからもよろしくお願いします!!!!
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[mokuji]
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