ふたり満足






じりじり照らす太陽の下、今日は珍しく体育館が使えない為、あのバスケ部達は外で外周中だ。体育館ならまだ他にもあるし合同練習も提案されたらしいけど、主将は体力作りの良い機会だからとあえて断ることにしたらしい。
終着地点で優雅に日傘を差して皆の到着を待つのは私である。持っているボードに誰が何分に完走したか記入しつつ全員を励まして背中を押すのが今日の私の役割だ。
……あ、


「くっろこくーん!!ラスト一周だよー!頑張ってーっ!!」


段々見えてきた、今にも倒れそうな薄い子にそう声をかけたら、ちっちゃくだけど数回頷いて返された。……ああ、返事する余裕もないんだなぁ……
目の前を通りすぎる時もあと一周あと一周!と声をかけて励 ましながら、もうギブアップさせてあげたいのをぐっと耐えて。その「あと一周」が長いんだよね、知ってる。因みに今の黒子くんは一周遅れで最下位だったりする。頑張れ、超頑張れ。

道端で吐かないでね…と可哀想なくらいよれよれな彼を見送っていた時、「ああ、黒子はやっとラストか」と聞き慣れた声がして、軽く振り返ってみたらタオルを首にかけて私が持っているボードに目線を向ける赤司くんが。
因みに一着ゴールしたのは当たり前のように彼だった。その時は流石に汗びっしょりだったのに、今じゃこの気温のせいでかじんわり滲んでるくらいで疲れなんて見えないし、むしろ涼しそうな顔をしているものだから余計あの子が可哀想に思えてくるよ。


「……相変わらず圧倒的に体力が足りないな」


一周追加するか。ぼそりと呟かれたそれに勢いよく赤司くんをバッと見上げた。このこの人は冗談なんかじゃなく本当にやる人だ、やばいやばいマジであの子死ぬよ!?


「そ、れはっ!!ち、ちょっと…!ま、まだ吐きそう(…とは、思ってるかもしれないけど!)にはなってなかったし!ほら、進歩だよ!うん!!だから追加は、可哀想かなぁ…!!」

「……そうか。よく見てるね」

「そりゃ、もう毎日見てるからねぇ…」


案外簡単にすっと身を引いた彼はどうやら一周追加は止めてくれたらしい。よ、良かったねぇ寿命延びたよ少年……
内心物凄くほっとしつつ、ボードを見ながら真剣に部員の事を考える赤司くんを横目で見てそういえば、と口を開いた。


「ねぇ、また前髪伸びた?」

「……まぁ、少しかな」

「それにまた赤司くんの目を見るのに目線が上になった気がするなぁ」

「みょうじみたいにわざわざ目を見て話そうとする奴は珍しいと思うけどね」

「そう?嘘かどうかを見極めるためには大事だと思うよ?…まぁ、赤司くんは嘘つく時もほとんど変化がないから難しいんだけどさ」


そこまで言うと赤司くんがちらりとこっちを見たから、話の流れの通り彼を見上げていた私の目とばっちり目線が交差して。そのままふと笑みを浮かべてから「よく見てるね」……なんて、すべて見透かしているような表情で言ってくるものだから、一瞬目が泳いでしまったけどなんだか悔しくて、すぐ平然と「誰のせいだと思ってるの」と言い返してやった。

実のところ、私はマネージャーでもなんでもない。本当……ただのお手伝いさんみたいな感じだ。
それというのも 、


「その割には毎日来てくれているよね」

「……お願いされちゃあね」

「マネージャーやりなよ、みょうじ」

「そのお願いは聞けないなぁ」


そう、この赤司くんにお願いされているからだ。どうして私を誘うのかは分からない……ううん、だいたい検討はついているのだけど、本格的な仕事は面倒だししたくないなぁっていうわがままと、その他もろもろの理由から、ちょっとしたお手伝いならしてもいいよなんて言ってしまったものだから、ほぼ毎日赤司くんは「今日も頼むよ」などと部活前に一言告げてくるようになってしまったのだ。
おかげでちょっと楽になったよ、ありがとう!と桃井さんに言われた時は流石にお手伝いして良かったかも、なんて思ってしまったけど。

おかげでこの前は数人にマネージャーじゃなかったのかと驚かれてしまったり、桃井ちゃんにしか分からないような事を任されかけたり。

お手伝いだって赤司くんの言葉を無視してしまえばいいものを、そうしようとしないのには一応理由だってあるんだ。


「手伝ってる内容だってそんなに変わらないだろ」

「……そうかもしれないけどさ、お手伝いさんって、自由じゃない?」

「自由?」

「そ。サボっててもサボりにならない」

「…………」


お手伝いだし。ね?と体を横に傾けて赤司くんの肩に軽く寄り掛かって、完走した人から別の紙に順位にして纏めていく。一位、二位、三位……あぁー、ここらへんはどんな内容でも毎回同じ人だなぁ。


「……なるほど、ね」

「うん?」

「いや……、けど俺もみょうじも、サボっているわけじゃないんだがな」

「桃井さん、今もあんなに動き回ってるのに?」

「桃井は良くやってくれているよ」

「さりげなく逸らすんじゃないよ」

ぐっと寄り掛かって部分に力を込めたら少しだけ愉快そうに笑われた。

……こうやって、赤司くんの手が一瞬でも空いた時に何か特別な事をするわけでもなく話をして触れ合って笑って。少しでも、君の心を和らげられる存在でいてあげたい。
それが自由を求める私の本当の理由であったりするんだ。


……あげたい、なんて。
ただ単に私がそうありたいだけなのにね。

書き込んでいた手を止めて、ふぅと息をつき体の力を抜いて隣にも たれかかった。
今まで距離に気を付けていたけど、これからは直接的手を重ねてあげるようにしてみようかなぁ。
拒絶されなければだけど。


「…みょうじ、重いよ」

「あれぇそういうこと言う!?」





ふたり満足

(「拒絶なんてしないさ」と、ぽつり言った彼はエスパーでしょうか)


「じゃ、赤司くんからも寄り掛かってくれていいんだよ?ほら」

「そうだな……、押し倒していいなら考えてあげるよ」

「君が言うと冗談に聞こえないよ」「冗談だと思う?」


そんな直接的さはいらないなぁ…
内心溜め息をつきながら、だけどほんの少しだけ私にも確かに重さが伝わって来ていることが嬉しくて、小さく笑った。


「また、 明日も頼むよ」

「お手伝いなら、喜んで」



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るぅ様(冬景色)より、誕生日のお祝いとして頂きました(^o^)/
ありがとうございます!!!
リクエストの帝光赤司くん嬉しすぎます。
思う存分にほのぼのさせて頂きました(*´∀`)
もうほっくほくです。
これからもよろしくお願いします!!!!


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