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気になる。
誰がって、あの子が。

黒子妹もといみずきちゃんが!
「あー」
考えれば考える程、頭から離れなくなる。これってまじ何な訳。
記憶が美化されているだけ?
それとも…
(本気でみずきちゃんのこと、)
「あああああ」
「さっきからうるさいのだよ!」
しまった部活中だった。
真ちゃんから顔面にボールが飛んでくる。当然俺が捕ることを見越してのことだったが、酷い仕打ちだ。
「あっぶねえな!」
もしキャッチ出来てなかったら今頃鼻血噴いてんぞ。
「ふん、ぼうっとしている方が悪いのだよ」
次は本気で撃つ、と悪びれるどころか凄んできやがった。
それまじなやつじゃん。
「へいへーい」
受け取ったボールを投げて真ちゃんに返す。
「お前ら無駄口叩いてんじゃねーよ」
「すんません!」
宮地さんからも怒声が飛んできたことだし、集中集中。



自主練も終え、部室で着替えながら、今ならいいかなーと真ちゃんの様子を窺いながら切り出す。
「あのさあ真ちゃん」
「断る」
真ちゃんが目で俺を刺した。
「まだなんも言ってねーだろ!」
「どうせろくなことじゃないのだよ」
面倒はごめんだと如実に顔に出し、早々に着替えて帰り支度を済ませてしまった。
「さっさと行くのだよ」
「ちょっ、誰がチャリ漕ぐと思ってんだ!」


しかし俺はめげない。
真ちゃんには懲りないの間違いだろうと言われそうだけど。
「なー真ちゃん」
「……一応聞いてやるのだよ」
たっぷり黙ったあと、深い溜め息が聞こえてきた。
「……」
「なんなのだよ。早く言え」
いや急に言いにくくなった。
真面目に聞かれるとなー。
いや俺も至って真面目に話したいんだけど。
「…昨日会ったみずきちゃんてさ」
「やはりな。彼女のことを聞きたいのだろう」
「そー。どんな子?」
真ちゃんにお見通しとか、そんな解りやすかったかな。
取り敢えず絶対後ろ向かないようにしよう。

「黒子みずき帝光中学三年身長155センチ12月15日生まれの射手座、昨日会っての通り黒子テツヤの妹なのだよ」
「そうじゃねーよ!」
つかその個人情報の暴露もどうなの真ちゃん。
「お前が聞きたいと言ったのだろう」
「だからそうじゃねーんだって!」
なんかあるだろ他に。
こう、人柄とか解るようなエピソードとかさ。

「そっちの方が余程人権に関わる個人情報なのだよ」

そう言われては口を噤むしかなかった。でも他に彼女のことを知る手立てがないのだからしょうがない。
お近付きになれるようなきっかけとか。
「お前が何故みずきを気にしているのかは知らんが、あいつはやめておくのだよ」
なにその親切且つ意味深な忠告。
「黒子の妹だからだ。あいつはバスケ部とは関わりはなかったが、赤司から大層可愛がられていたのだよ」
赤司っていうと、真ちゃんらキセキの世代を率いていた帝光中バスケ部の元主将…そんなにやばいのか?
「高尾、お前は家にゴキ○リが出たらどうする」
は?一体なんの話だよ急に。
「そりゃ退治するっしょ」
俺は訝しみながら答えた。

「赤司からすれば、今のお前のことなのだよ」

ぶっふぉ。
え、俺害虫?赤司の抹殺対象になるの?
一人娘を易々と嫁にやる父親はいないのだよってそりゃ話飛躍してんだろ。
「そこまで大袈裟な話じゃなくてさ」
「赤司にとっては大袈裟でもなんでもないのだよ」
まじな父親かよ!黒子も結構溺愛してるっぽかったけど、それ以上ってことか?
「あの二人のみずきのディフェンスは誰も敗れないのだよ」
相乗効果ってやつか。
手強いなー。

「一度、黄瀬がみずきを二人で出掛けようと誘ったことがあった」
真ちゃんが急に改まって話し始めた。
「それが赤司にばれて」
うんうん。
「結局七人で出掛けることになった」
……は!?
「七人?なんでそうなんだよ」
どうやったら二人のデートが七人の御一行様になるんだよ。
キセキの五人と黒子兄妹ってことか?
「ああ」
更に真ちゃんは続ける。
「桃井…バスケ部のマネージャーが、二人で買い物に行こうと誘ったことがあった」
なんとなく先は読めるけど、俺はうんうんとまた相槌を打って続きを促した。
「黒子と赤司はその日に限って退っ引きならない用があり、日程を変えさせようとした」
すげーな。
「しかし、みずきがあまりに残念がった為、それは叶わなかった」
あ、ちゃんとみずきちゃんの意志も尊重してんじゃん。さすがに女子二人の買い物だったらパパとしては問題もないしな。
「そこで」
ん?

「青峰を護衛につけて外出を許可した」

ええええ。どれだけ徹底してるんだ。
「赤司は、みずきの希望を聞き入れ甘やかしているようで、結局は自分の思う通りに物事を動かしていた」
「…へえ」
つまりみずきちゃんは鉄壁に守られた高嶺の花。
攻略は難しそうだ。しかも受験生ときた。勉強の妨げは御法度だ。
「そういえば、みずきちゃんは何処に進学すんのかな」
「そんなことを知る訳がないのだよ」
「ですよねー」
はー、と溜め息を吐いて自転車のハンドルに体重をかける。
鬱陶しいのだよ、なんて真ちゃんの悪態も右から左。
あんだけ仲良かったら、黒子と同じ誠凜だろうな。

「む…」
「どったの真ちゃん」
真ちゃんが携帯電話のディスプレイを睨みながらふいに唸った。
「高尾、今日のおは朝占いで蠍座は二位だったのだよ」
「は?」
別に俺は信じてねーんだけど。
「馬鹿め。お前にも運命の加護があると言っているのだよ」
真ちゃんが信号待ちでペダルを止めた俺に端末を突き出した。頼りなく光る画面は受信したメールを表示している。
読めってことか?
お疲れ様です、から始まる本文の文字を目で追っていく。なになに、
「緑間先輩、昨日はありがとうございました。重ね重ね申し訳ないのですが、もしよかったら…」

緑間先輩が受験のときに使っていた参考書をお借りすることはできませんか。

「って、真ちゃんみずきちゃんのアドレス知ってたのかよ!」
「知らなかったのだよ。俺も教えていない」
大方黒子が教えたのだろう、と真ちゃんは眼鏡のブリッジを示指で押し上げた。
「で、運命の加護ってことは、これ口実で会わせてくれんの?」
協力してくれんの?
珍しいこともあるもんだな。
俄にはそう思えず、おどけて見せる。
「お前がいい加減な気持ちでなければ、会わせてやらんこともない」
「ちょっ、まじ?」
「会えば気が済むのだろう」
今日のように上の空で練習に支障を来されても困るのだよ、とかまじでエース様に万歳だわ!
「やったー!」
歓喜に両手を頭上に掲げた。
「うるさいのだよ」
なんとでもいうのだよ。

「っと、」
握ったままだった真ちゃんの携帯が、振動して新たなメールの受信を知らせる。
「ほい、またメール来たぜ」
「……」
メールを開封した真ちゃんが、今度は顔を明白に顰める。
「どうしたんだよ」
「さっきの話はなしだ」
真ちゃんはふっとそっぽを向いた。

「はああああ!?」

俺は後ろに身を乗り出して、真ちゃんの手から携帯電話を奪った。
なんのメールだったんだよ。
「ったく、」
多少嫌な予感を抱きつつまた文字を追っていく。
「うげ」

予感的中。


黒子からだったそのメールは、

『昨日みずきからどうしても知りたい、と緑間くんのアドレスを聞かれました。どういうことでしょうか?みずきからどんなメールが来ましたか?勝手に教えたことは謝りますが、万が一みずきとなにかあったらそのときは赤司くんに通報します』



どう読んでも脅迫状だった。


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