さつきちゃんの後をひょこひょこついていきながら、力仕事があれば早速手伝っていく。
部外者だからなかなかに視線が痛いが、こちとら赤司くんの許可もらってんだ、と私は既に開き直っていた。



勝負


「え、さつきちゃんって青峰くんの幼馴染みなんだ」

「うん」
じゃあ一人目は青峰くんにしようかな。さつきちゃんに頼んでもらおう。
事情を説明すると、彼女は快諾してくれた。

倉庫から出ると、早速さつきちゃんが彼を指差す。
「あ、今空いてるかも」
「本当?」
さつきちゃんが彼に近寄っていって一言二言交わすと、私を手招きした。

「手加減しなくていんだろ?絶対ぇ負けねえ」
ぱきぱきと青峰くんが指を鳴らした。
この体格差よ。見上げながら、
「が、頑張って下さい」
としか言えなかった。怖すぎる。
赤司くんが「初戦か。見せてもらおう」と歩み寄ってきて、仕切り始める。
腹這いになって互いの手を組み合い、もう片方の腕は折って自分の背中に置く。
この状態で力を入れるのは難しいのでは、と思った。が、頭の造りの違う赤司くんの考えることは端から私には図れるものではない。大人しく従った。
さつきちゃんが掛け声をかける。
「用意…始め!」

「っらぁ!」
「そおい」

「うおっ」
ごんっ。
一瞬で青峰くんは床をぐるりと転がった。私の勝ちである。
流石に私も驚いた。青峰くんって案外弱いんだ。

(いや、私がおかしいのか…)

打たれ強いらしい彼はがばりと起き上がると私に喰ってかかってくる。
「おいてめえ真田っつったか!なにしやがった!」
「ご、ごめんなさい」
さつきちゃんも唖然とする中、私は起き上がって平謝りだ。

「やめろ大輝。お前はもっと体幹を鍛えろ」

赤司くんが割って入って、
「やはり見込んだ通り、真田の方は完璧な安定感だな」
私が褒められてしまった。
青峰くんは「一ヶ月後に絶対負かす!」と練習に戻っていく。いつの間にか人集りが出来ていて、赤司くんがそれを散らす。
そんな中、「俺も勝負して欲しいっス!」と勇みやって来たのは黄瀬くんだった。
赤司くんの許可を得て再び勝負の体勢をとる。
「用意…始め!」

「ぐっ…!」
「やあ」

「おわぁっ」
ごんっ。
先程の試合を再現した形になった。
「涼太も鍛え方が足りないな」
黄瀬くんは赤司くんの指示で外周に出ていく。
戦ってみて思ったことを私は口にしてみた。
「赤司くん…私全然本気出せてないんだけど」
「そのようだな」
まさか大輝まで容易く転がされるとは。彼が考え込む。
どうやら私は赤司くんの予想を超えてしまっていたようだ。

「残りは真太郎と敦か。真太郎、こっちへ来い」
完全に面白がっている赤司くんは、練習を中断させて緑間くんを呼ぼうとした。
「俺はやらないのだよ。怪我でもしたらたまらないからな」
彼は赤司くんの呼び掛けに応じず、その場から拒否を示す。

「左手でやらなくていい。どうせ結果も変わらないしな」

赤司くんが悪い笑みを浮かべた。

「…なんだと?」

手にしていたボールをゴールに投げてから、緑間くんはこちらへやってくる。
何故そんな安い挑発に乗るんだ、緑間くん。

結局手は右で組んだ。私は利き手だが、彼はそうではない。
(大丈夫かなあ)

「用意…始め!」

「ふんっ…!」
さつきちゃんの手が離れた私達の腕は、床と垂直なまま動かなかった。
「お?やるね緑間くん」
「舐めるなよ…!」
先の二人よりは僅かに手応えがあり、周りから歓声が上がった。しかし彼は既に歯を喰い縛る程力を込めている。
私は一呼吸おいて「ほいさっ」と掛け声と共に彼の手の平を圧す。
ごんっ、と彼も転がった。
「伊緒ちゃんすごーい!」
部員たちが最早蒼褪める中、きゃっきゃっとさつきちゃんは喜ぶ。私が調子に乗って「まだまだなのだよ」と言うと、「一ヶ月後に絶対負かすのだよ!」とさっきも聞いたような台詞を吐き捨ててやはり練習に戻っていった。

しかし浮かれていたのも束の間。赤司くんが私に課題を言い渡したのだ。
「真田が一ヶ月後にすることは、負けないことではない」
「?」

「勝たないことだ」

「それって負けるのと同じじゃ…」
私は正座の姿勢をとって挙手した。
「違う。一ヶ月やそこらでは誰も真田には勝てない。そんなことはさっき試合で既に解りきっている」
戦った三人が聞いたら憤慨しそうなことを赤司くんはさらりと宣う。
「恐らく真田と戦って勝てるのは敦だけ。あとの三人とは力をコントロールして少なくとも10秒間均衡を保てるようになれ」
えええええ。
あの三人噛ませ犬!?
あんな瞬殺だった人たちと互角の力に、調節するなんて。
「で、出来るかなあ…」
私が弱音を吐くと、赤司くんが

「やれ」

目で私を射た。

「ぎ、御意!」


その頃、敦くんと黒子くんが
「紫原くん練習して下さい」
「やだ」
「そんなに気になるなら君も赤司たちに混ざってこればいいじゃないですか」
「やだ」
「真田さんが青峰くんたちと手を握っているのが面白くないのでしょう」
「うっせーし」
「(図星ですね)」
などと、遠くから私たちを眺めつつ話していたことは知る由もなかった。


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