「真田、今までのスポーツの経験は?部活に入っていないのか」
「規格外すぎて、適応出来なかったの」
身体を動かすことは嫌いではないし、やろうと思ったことはあったのだが。



目標


あははと頭を掻くと、赤司くんは深刻そうに顔を顰めた。

「よい指導者に恵まれなかったのか。嘆かわしいことだな」

「うーん…そうなのかな」
少しでもだめだと思ったらすぐに諦めてきたから、積極的になにかを極めようとしてこなかった。
そうやって、自ら機会を逃してきたというのも大きいだろう。

「今もなにもしていないのか」
「朝夕の走り込み5キロとかくらいかな」
それは、小学生のころから続けている。体力を持て余して、無意識の行動だった。
「へー、伊緒ちんえらいねぇ」
「確かに、部活に所属していないにも関わらずそれは大したものだ」
「なんの役にも立ってないけどね」
二人は感心してくれるけど、精々ストレス発散くらいのもので、力のコントロールが出来ていないのがいい証拠だ。
「それは力を正しく発揮してこなかったからだ。身体が、力を使うべきところと抑えるべきところを知らないんだ」
赤司くん曰く、私は余程意識して力を抑えようとしない限り力が解放状態にあり、ふとしたときにそれが跳ね上がって器物損壊を起こしているのだという。

「力を意識して発揮することはなくても、特に抑えようとする場面くらいあるだろう」
私は普段の生活を思い返す。
「あ」
多分、あれかな。
「なんだ」
でも恥ずかしくて言えない。
「笑われるから言わない」
目を逸らして首を横に振った。
「言え」
「別に笑わないよ」
「でも…」
「大丈夫。ねー赤ちん」
「ああ」
「……」
目で念を押され、それでも尚私はたっぷり黙ってから小さく小さく答えた。

「料理とか。お菓子作りとか」

頭が非常に単純な私は、“なんか一般的に見て女の子っぽい”ことが出来ればおしとやかになれると思ったのだ。

「……」
「……」
二人は固まっていた。

(黙ったああああ!)

そういうリアクションで来たか。それはそれで傷付く。
居た堪れなくなって、私は捲し立てた。
「どうせ似合わないし考えがあほだよね、解ってるよ!いくらレパートリーが増えても未だに卵だけは扱えないしね!あはは、いやもうやっぱ二人も笑ってくれていいよ!」
穴があったら入りたい。最早涙目である。

「…赤ちん」
「なんだ」
二人が漸く口を開く。
「俺、やっぱすげーいいと思う」
「…よかったな」

しかし、なにを言っているのかはよく解らなかった。出かかった涙も引いていく。
赤司くんは、じっと私を見た。
「な、なに?」
「どうやら君は思っていたよりずっと努力家なようだ。目標を決めよう」
赤司くんが腕を組む。
「なにごとも到達地点がなければ何処へも行けないだろう。力をコントロール出来るようになって、どうしたいのか考えておけ」
宜なるかな。

(とは言え…どうしよう)
今日中に考えよう。
もしかしたらなにかヒントを得られるかも、と思って部活を見学させてもらうことにした。
赤司くんもこれからの私のトレーニング方法について考えてくれると言っていたし、私自身もなにかを見つけたいと思う。

「力をコントロールして、なにかしたいこと…」
ぴらりと先程もらったテスト結果を見返す。溜め息しか出ない。
「なーに見てんスか」
「わっ」
後ろから黄瀬くんが現れ、手にしていたその紙を取られる。
「あっちょっ返して!」
「『体力テスト 真田伊緒』…ってこれアンタのっスか。この前からなんかしてると思ったら、こんなことしてたんスかー」
うわーすげえなーと堂々と行われる黄瀬くんによる私のプライバシー侵害。
「勝手に見るなぁ!返してってば!」
背の高い彼に掲げ上げられてしまえば奪還など出来るはずもなく、ただ喚くのみ。
「本当、女なのが勿体なだだだだだ!」
騒いでいると、突如黄瀬くんが私より大きな声を上げる。

「なに言ってんの?黄瀬ちん」

更に後ろから敦くんがやってきて、彼の腕を掴んでいた。
「それ伊緒ちんに返して」
「か、返す!返すっスから!」
始めは黄瀬くんも学習能力がないなーと思っていたのだが、本気で痛がっている様を見て、
「敦くん!私は大丈夫だから!離してあげて!」
慌てて敦くんに頼むと、彼は漸く掴んでいた腕を離した。黄瀬くんは「黒子っちー!」と半泣きで退散していって、騒ぎの元凶となった紙が私の手元に戻ってくる。
「はい、伊緒ちん」
「あ、ありがとう…」
「本当に大丈夫ー?」
このやりとりに既視感を覚えた。
「大丈夫、だよ」
私は今更なにを言われても平気だが、敦くんは怒ってくれているようだ。

(どうしよう…嬉しい…)

私のことを怖がらず、剰え心配してくれて、“破壊神”なんて呼んだりしない人。

もしかしたら、

(すき、かもしれない)

私のことを、“伊緒ちん”って呼んでくれたときから。

だとしたら、彼の為に頑張りたい。
力をセーブ出来るようになって、出来るだけ普通の女の子になって。

「敦くん!」
「なにー」
「オムライスすき!?」
「んー?すきだよー」
「よし!」

私は離れたところにいる赤司くんに向けて叫んだ。


「赤司くん!目標決めました!力をコントロール出来るようになったら、私、敦くんにオムライスを作ってあげます!!」


赤司くんが、一瞬目を丸くしたあと、微笑んだ気がした。


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