13



困ったことになった。
閉じ込められてしまったようだ。
開けて入ったはずの戸が、出ようとしたら何故か開かなくなっていたのだ。



嫌な予感


今日バスケ部では二、三軍の合同練習の日で、とはいえ私が出入りしている一軍には大して関係がないはずだった。
しかし、一軍のマネージャーから『合同練習の日は、人手が足りなくなるから手伝ってきてと桃井さんが言っていた』と言われ、特に深く考えもせず頷いた。
その際、『三軍体育館の倉庫から二軍体育館に持って行ってほしいものがある』とメモを渡され、受け取った。
確かに、こういう労働は私の出番だな、などと呑気に思っていた。
そうしてここにやってきたら、こんな事態に。

当然、なにかが閊えて内側から開かなくなっているのではと最初に調べた。
結果異常はなし。
多分、指示された器具をがたがたと探している間に外から施錠されてしまったのだろう。

他に脱出口がないかも探した。
もう何年と開けられていないであろう格子のかかった窓も触れてみた。
いくら老朽化しているからといって、さすがにこれは壊せない。箒やモップを折ってしまうのとは違うのだ。
これは備品ではなく設備、故意に損壊しようものなら校長室行き間違いなしだろう。


誰かに気付いてもらえる可能性はあるだろうか。
恐らく合同練習が終わったらそのまま解散、誰も倉庫になんて立ち寄らないだろう。
当然さつきちゃんにはなにも言ってきていないし、マネージャーや誰かの意図でこうなってしまったならば、辻褄が合うように周りに説明されているはずだ。
「あーあ…」
お手伝い、と称して一軍体育館に出入りするようになって暫く経つ。誰かの意図、とは完全に私に向けられた悪意のこと。
この部に於いては確実に存在する。
以前に目にしているのだ。

(さつきちゃんを助けたきっかけだった訳だし)

しかも、私は部員ですらないのだ、そりゃあ邪魔だろうな。
人を疑うことを知らない訳がではなかったのに、他人の冷ややかな目に慣れすぎて、鈍くなっていたようだ。

敦くん。
こんな格好悪い間抜けなところ、見られたくはないけれど。
いつもみたく、助けにきてくれないかな。





「伊緒ちんがいない?」

俺が聞き返すと、さっちんがそう、と顔を曇らせた。
「練習が始まったときはいたんだけど…もう三十分くらい。ムッくんも知らないんだ」
そう言えばさっきから伊緒ちんの姿が見当たらない。確かに、練習が始まってから暫くは忙しそうにしているのを見かけていたのに。
「帰ったんじゃねーの」
峰ちんがぼたぼた流れる汗を拭きながらやってきた。
「荷物はまだあったもん」
さっちんが、伊緒ちゃんが無断で帰るはずないと唇を尖らせる。
「赤司くんがなにか用を頼んだのかな」

「それはないと思いますよ」

「テツくん!」
峰ちんの後ろから、首にタオルをかけた黒ちんが顔を出した。いつからいたの、とかはこの際どうでもいい。
「黒ちん、それどういうこと」
「赤司くんは、今日はコーチのところへ寄ってから来ました。桃井さんが言ったように三十分前にはもう真田さんがいなくなっていたとしたら、赤司くんと真田さんは部活ではまだ会ってすらいません」
「なるほど」
「さすがテツくん!」

じゃあ、捜しに行かなきゃいけないね。
今日も一緒に帰ろうって言おうと思ってたし。


なんか嫌な予感するし。


「じゃー行ってくるね」

俺は体育館を出ていこうとした。
「えっ」
「はあ?」
「何処に行くんですか」
三人の声が重なって、俺を引き留める。
「決まってんじゃん。伊緒ちん捜しに行くんだよ」
「なに神経質になってんだよ」
「まだ練習中ですよ。せめて休憩時間になってからでも…」
うるさいな。
「ごめんねムッくん、私が気にしすぎただけかも。伊緒ちゃんは部員じゃないんだもんね。なんなら私が捜してくるから」
やだし。
「赤ちんが用頼んでないって言ったの黒ちんじゃん。さっちんもおかしいと思ったから俺に訊いてきたんでしょ」
伊緒ちんを探すのは、俺だ。
伊緒ちんが待ってるのは、俺だ。

「…解りました。止めません」

黒ちんが険しい顔をして頷く。
「おいテツ」
「その代わり、赤司くんに許可をとって下さい」
「……」
本当は、そんな間怠っこいことなんてしてられない。でも、ここでの押し問答の方がずっと時間の無駄だ。
むかついたから、俺は返事をせずに指示を飛ばしている赤ちんのところへ向かった。


「真田がいない?」

赤ちんが俺と似たような反応をして見上げてきた。
ということは、やっぱり赤ちんも知らなかったんだ。
ますます怪しい。
「そー。だからちょっと捜してくる」
言うだけは言ったしいいよね。
赤ちんの返事も聞くつもりはない。

「敦」

なのに、呼び留められる。
「なに、俺急いでんだけど」
「いや…先程『今日真田には、二、三軍の練習の手伝いにいってもらっている』とわざわざ言いにきたマネージャーがいてね」
「……は?」
誰がそんなことを言ったのか。
誰がそんな指示を出したのか。
二軍も三軍もちゃんとマネージャーは間に合っているから、合同練習だろうとなんだろうと助っ人なんか必要ない。
例えマネージャーであっても。だから当然、“さっちんのお手伝い”である伊緒ちんがそんなことをさせられるのは、どう考えても有り得ない。
「俺もおかしいとは思ったんだが、そのマネージャーも伝言の伝言の伝言などと馬鹿なことを言い始めてな。どうせ内部事情をよく知らない真田を、合同練習に託けて追い出したんだろう」
だから?放っておけって?
そんなこと聞かされたら余計安心出来ないじゃん。

「赤ちん。嫌な感じがするんだ。そっちにちゃんといるならそれでいいよ、勿論今日だけね。でも、せめて確認させて」

「…仕方がないな」

俺が捲し立てると、溜め息と共に「五分で帰ってこい」と許可が出た。


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