次の日のとある休み時間。
私はいつも通り自分の席で大人しくしていた。
それは突然やってきた。
「オラァ!真田!勝負しろー!」
青峰くんという嵐が。



君からだった


スパァンと勢いよく教室の戸が引かれ、一斉にクラス中の視線が彼に集まる。
「やめなよ青峰くん!」
後ろから走ってついてきたらしい息を切らしたさつきちゃんが、続いて現れた。

「青峰くん」
「赤司に体育館以外での勝負も認められてんだろ」
廊下出ろ、と決闘宛らの誘い文句に苦笑しつつ大人しく従う。

机を使うと壊してしまうことは解っていた。しかしさすがに廊下で臥位はとれない為、足を肩幅に開いて立ち手を組む。
もう片方の手は体育館でやるときと同じように背中に回す。
「もー…いくよ。…始め!」

「っらぁ!」

さつきちゃんの掛け声で青峰くんが力を加えてくる。
私は早速赤司くんに言われた通り、彼の出力に合わせようとした。相手の力の強さを感知し、一拍置いてから圧し返すつもりだったのだ。

「っと、あっ」

「い゛っ…てえええ!」
しかしそう上手くはいかなかった。力を調節しきれず青峰くんは床に崩れ落ちた。
「きゃー伊緒ちゃんかっこいー!」
さつきちゃんが抱き着いてくる。
私は恐る恐るそのさらさらな髪を撫でた。
「うーん、難しいなあ」
青峰くんと組み合った手の平を見つめ、閉じたり開いてみたり。
ままならないものだ。

出来ていた人集りがドン引きする中、それを掻き分け「伊緒っち次俺ー!」と黄瀬くんがやってきた。

「なにその“伊緒っち”って」

冷めた目で見遣ると彼はにかっと笑った。
「俺は認めた人をそやって呼ぶんス!」

「許可しない」

こいつ私のこと小馬鹿にしてばっかじゃんか。

「ヒドッ」
「…私に勝てたらね」
無理と解っていて条件を出すと、「望むところっス!」と腕捲りをした。

「はい終わり」
「ってー!」
ちょっとムキになった私は黄瀬くんをなんでもなく廊下に転がすと、チャイムが鳴ったので教室に戻る。

そのとき、ギャラリーが私にネガティブな視線を向けていたことには、勿論気付いていた。
加えて、「なにあれ」とか「やっぱ怖えな」とか「黄瀬くん可哀相」とか「まじで破壊神だな」とか。
そんな嘲笑や嫌悪も、彼等は聞こえるように言っているのだ。

やれやれ人の悪意ほど解りやすいものはない。

はあ、と溜め息が喉まで出かかったとき、背後から底抜けに明るい声が飛んできた。

「次は部活のときに勝負っス!絶対に今日も来いよ!」

「っ!」
驚いて振り返ると、黄瀬くんがぶんぶんと手を振ってこれでもかという程笑っている。

さつきちゃんや青峰くんと一緒に自分の教室の方へ行くその背中が、私を励ましているように見えた。
なんだこいつとばかり思っていたけど、こういう無邪気さに救われることもあるのだと知った。

(そういえば)

無意識だったけれど、私は黄瀬くんにはからかわれると声を上げて抵抗していた。
そんなことは初めてだった。今まで耐えるだけだったのに。
赤司くんもさつきちゃんも青峰くんも緑間くんも、私と接してくれた。

バスケ部のあの場所は、敦くんが連れ出してくれた私の新世界。

敦くんを通すと、文字通り世界が違って見えたのだ。
彼との出会いから、私の視界は目まぐるしい変化を遂げた。
そのままの私で、人と接することが出来る。

ふと、感情が溢れ出す。

(会いたい)

敦くんに。

いつもは真面目に取り組む授業だが、このときばかりは早く終われと何度も時計を睨んだ。

早く放課後になってほしい。
あの笑顔に会いたい。
名前を呼んで、手を引いてほしい。

私の笑える場所まで。


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