「引っ越し作業とかは、出来るだけ早く終わらせたいな」

そして、一時間でも多く、大輝と過ごす時間を作りたい。
「おう」
そうだな、と大輝は頷いた。
「でも、大輝にもそれなりに必要な準備もあるでしょ」
それに、先方との打ち合わせもある。そう言うと、
「お前がバイト行ってる時間に出来るだけ済ませっから、気にすんな」
にっと大輝は笑った。

(大輝は、本当の本当に、私のことを最後まで大切にしてくれるんだ)

私は、最後まで沢山大輝の優しさをもらうことにした。

部屋探しも、いくつかの不動産屋を梯子して何軒か見て周り、「本当にこんな狭くていいのかよ」と大輝は懸念したが一応決まった。
保証人は、事情を知っている六つ年上の従姉妹に二人で頼みに行った。
無事判子をもらい、引っ越しも従姉妹の旦那さんが車を出してくれることになった。

カレンダーに×マークを付けて、二人で残りの日々を数えた。
残りが二週間になった頃、
「明後日から三日間、一回向こう行ってくるわ」
と大輝が切り出した。
向こうの生活環境を確認する為らしい。チームの施設も見て、大輝もいよいよ移住の準備を進めていく。
「帰国したら、残りは一週間だね」
「ああ」
「そろそろ、この部屋も片付けなきゃね」
「そうだな。テツとさつき呼ぶか」
「うん」
私と大輝は、どちらからともなく部屋を見渡した。

翌日、大輝は自分の荷造りを、急な呼び出しにも関わらず駆け付けてくれた黒子くんとさつきは、私と引っ越しの準備に取り掛かった。
「ごめんね、突然」
ぎりぎりまで必要なものを除き、大まかに二人のものをそれぞれ分けた。
捨てるもの、持っていくものに細分化していき、段ボールに詰めていく。
「ほんとだよ!もー!アメリカ行くのだってもっと早く言ってほしかったよ」
私たちの仲じゃない、織子のばか!大ちゃんのばか!とさつきは少し怒った。
「みんなにも言ってないんですか」
「うん…大輝とは、そんな話出てなくて」
「え、せめて赤司くんとか」
「まだなの」
私は少し離れた位置で作業をしている大輝の背中を見遣った。黒子くんもさつきも僅かに顔を顰める。
「さすがにそれはちょっと、まずいですね」
「うんうん。簡単に送別会とか出来ないかな」
二人が距離を詰めてきて、小声で言った。
「そうだね…じゃあ、大輝が帰ってきたら、集まれる人だけでも」
大輝の帰国後一週間はゆっくり過ごそうと二人で決めていた。
けれど、やはり水臭いかもしれない。漸く関係も良好に戻りつつあるのだから。
私が頷くと、さつきが「サプライズにしようよ。私に任せて」と悪戯っぽく笑った。黒子くんも乗り気なようだった。

「そういえばよ、織子」
三人で話をまとめたタイミングで大輝がこちらを振り向いた。揃って肩を跳ねさせると、大輝は訝しんだ。
「な、なに、大輝」
「昨日火神からメールが来た」
「なんて?」
「俺がアメリカ行くっつの、噂で聞き付けやがってよー」
「噂になってるの?さすが大輝」
「ったくテンションの高さがうぜー」
私は持ち場を離れて大輝に歩み寄った。
「ふふ、楽しみだね。試合するの」
「まぁな。ちょっとばかし時間作って会って来るわ」
口では悪態を吐くものの満更でもなさそうだ。黒子くんも、「僕からもよろしく伝えておいて下さい」と表情を和らげた。


そうして済ませるべきことは大方済ませ、私は大輝を玄関で見送る。
「二週間後は、空港まで行くからね」
「ああ、頼むわ」
「ん。気をつけて」
「織子、お前もな。なんかあったらさつきんとこ行けよ」
「うん」

いつもみたく、キスをして別れた。

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