織子を、一生守りたいと思った。
そう、決めていた。


さつきと同じでバスケがすきで、量の多いマネージャーの仕事を、文句一つ言わずにこなしていた織子。
中学で知り合って、何故か気が合って、気付いたら付き合っていた。
いつも明るくて、自分で作ったと言って持ってくる差し入れは美味くて、話しやすかった。よく一緒にバスケの試合のDVDを見た。

なんでもないことの積み重ねで、漠然とずっと一緒にいられたらいいと思うようになっていった。
はっきりすきだと自覚したのは、織子がテツと楽しそうに話しているのを見て嫉妬したときだった。

バスケがつまらなくなってよくサボるようになったときは、喧嘩が絶えず数え切れないほど悪態を吐いたし、泣かせた。
その所為で何度も別れそうになったことだってある。
それでも結局高校まで一緒だったし、その頃にはもう離れるなんて“今更”だった。

大学受験に失敗したとき、織子は酷く体調を崩した。
親との関係に苦しんでいるのになにもしてやれなくて、無力な俺は無責任なことばを投げ続けた。
いつも無邪気に笑い合っていた織子の、こんなにも弱々しい一面を知ったのは、このときが初めてだった。

丁度そのとき、留学という形でアメリカへ行き、バスケをしないかという話が来ていた。
嬉しくない訳がなかった。
だが俺は考えた。
俺がいなくなると知ったら、織子はどうするだろうか。
俺がいなくなったら、織子はどうなるのだろうか。
誰が守ってやるんだろうか。

―――俺しかいない。

俺自身も、織子がいない生活を考えると、虚しい気持ちになった。
痩せた背中を摩ったとき、織子をずっと守ると決めたのだった。

俺は、誰の話も聞かなかった。
誰にも、俺にとってどれだけ織子が大切かなんて解らないことだ。
どんなときでも織子は俺の傍にいてくれた。俺が好き勝手やってこれたのも、織子がいたから。
高一の冬、テツに負けたときも『大輝はまだまだ強くなるよ。だから、今度は勝とうね』と、織子は笑ってくれた。
俺は、ずっと織子の存在に支えられてきて、当たり前に甘えていた。
強く優しいと思っていた織子の危うさを知っているのは、俺だけだった。

織子を傍に置いておけるなら、誰になんと言われても平気だった。

俺は織子との生活を始め、大学でもバスケをして。
多忙で擦れ違い、織子の変化に気付かない日もあったりして。
喧嘩をしても、仲直りをしては二人の家に手を繋いで帰って。

狭いアパートでも、二人でいればなにもかもが十分で、こういう毎日がずっと続いていけばそれでよかった。

その気持ちに、嘘はない。


なのに、二度目のアメリカ行きの話が来たとき、俺の気持ちは揺らいだ。
いつかはアメリカでプレーしたいという思いを、何処かで持ち続けていた。

しかし、すぐに返事は出来なかった。

真っ先に、やはり織子の顔が思い浮かんだからだ。
織子は俺がどれ程頼み倒しても、絶対に一緒にアメリカへは来てくれないだろう。
あいつは保育士を目指している。
その為に苦難を乗り越えて今の大学に進んで、必死に勉強をしてきた。
俺も織子にはそれを叶えてほしい。道半ばで投げ出すなんて望んじゃいない。もう内定だって出ている。
それでも、それは口をついて出てきた。

「一緒に来てくれ…」

俺は、織子からはっきり断られるのを望んでいたのかもしれない。

織子には、見透かされている気がする。俺がアメリカに行きたいという気持ちが少なからずあることを。
多分あいつは俺が決めたらなにも言わず頷く。無理をしてでも「私は大丈夫」と言うだろう。
俺はそれを、強がりだと知りながら飲み込んでアメリカに行けるだろうか。


バイトを終えて、帰路につく。その足は自然と速くなる。
二人の時間が、有限だと意識してしまっているからだ。
今は出来る限り、織子を独りにしたくなかった。

「ただいま」

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