約4年前、殆ど孤立無援の中で私たちは新しい生活をスタートさせた。
狭いアパートで、身を寄せ合うようにして暮らしてきたのだ。
温かい家だった。
私の帰る場所であり、大輝の帰ってくる場所だった。



お互い学業にバスケ、アルバイト―――特に慣れない間は忙しい日々だった。私の両親からの仕送りは僅かであり、生活も慎ましやか。
私の実習が忙しくて家事が疎かになったこともあった。大輝の負担になってはいけないと無理をして体調を崩したときにはこっぴどく怒られた。
気付かなくて悪かった、と項垂れた大輝は、思えばいつも私の為に怒ったり叱ったり、落ち込んだりしてくれた。

勿論喧嘩をすることもあった。下らないことで、何度も。
すきだから解って欲しくて、押し付けたり拒んだりを繰り返した。

家出をしても、迎えに来てくれた。
さつきに泣きついては、私は二人を困らせた。その度に大輝は、私の帰る場所を教え込むようにして宥めてくれた。

胸の中はいつも、大輝に対する負い目と、ずっとこのまま暮らしていたいという甘えで葛藤していた。
大輝はどう思っているのか、この際はっきり知りたい。
どんな答えでも。

重たい足取りで家路を辿った。今日は、私の方が帰りが早い。
冷たいドアノブを回して一人ただいまと呟く。
バイトは二十時で上がったが、大輝は私より二時間ほど遅くなると言っていた。
洗濯機を回し、夕食の用意をする。食べる時間を考えれば夜食になるのだが、今日は指を切らないようゆったり調理した。
ラグの上に足を崩して座り、乾いていた洗濯物を畳んでいく。

大輝のいない家は広く静かで、外の世界と一切遮断されたような感覚に陥る。
私が独りになれば、ここには住んでいられないだろう。
あともう少しで帰ってくると解っている今でさえ、家の中に大輝の姿を見るのだ。

日当たりのよい窓辺で、寝転んでよくお昼寝をした。
キッチンはガス台も流し台も狭かったけれど、大輝のリクエストに応えて沢山の料理を作ってきた。
箸もスプーンもフォークも、マグカップもガラスのコップも、お茶碗も取り皿も、全てペアで揃えた。新品の輝きがなくなっていくほどそれらは私たちの手に馴染んだ。
二人してゆっくり出来る朝は、寄り添って食パンを齧りながらテレビを見た。
晴れた日はベランダに布団を干し、ついでにひなたぼっこをした。
外出の際は必ず玄関先で『行ってきます』のキスをした。
ことあるごとに、『幸せだね』と笑った。

私のここでの生活の全てに大輝がいる。独りで残されるなんて、絶対に耐えられない。
私たちは、この間取りを愛しすぎた。
大輝がここを出ていくときは、私も一緒だ。

つう、と頬に涙が伝う。

泣いちゃだめ、と拭ったとき、ガチャリと錠の開く音が玄関から聞こえてきた。
「ただいま」と低い声が私を呼んだ。

「おかえりなさい」

畳んでいた洗濯物を積んで横に除け、私は立ち上がった。

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