「そうなんですか」
困りましたね、と黒子くんは少し眉根を寄せる。

大学で、講義の合間に黒子くんを食堂に呼び出して全てを話した。
黒子くんも大輝と同じ中学からの付き合いで、なにかあると相談に乗ってもらう。
いつも落ち着いて話を聞いてくれるし、この大学に入学出来たのも彼のお陰だ。
勿論大輝のこともよく知っているから、安心して話が出来る。

「私は…大輝がどれだけ言ってくれても、ついていけば足手まといにしかならない」
勿論日本を離れて英語圏で生活するということに対する不安もある。
しかしなにより、大輝は大輝の、私は私の夢を叶えるべきなのだ。
私たちはそれぞれ、離れてしまってもなにか一つは成し遂げなければいけない。
私のそれは、保育士になるということ。当然、日本でだ。黒子くんや大輝に助けてもらって入学した以上は、尚のこと中途半端にはしたくない。
大輝のそれは、バスケで活躍すること。それも、世界という舞台で。当たり前のように、私の願いでもある。

「離れるのなんてやだよ。だいすきなんだもん。でも、だからこそ大輝を縛りつけることなんて私には出来ない」

今度こそ、大輝の意志で大輝の道を選んでほしい。
どうか、あのアパートが苦痛な檻になってしまう前に。

「内定をもらった今でもまだ、私は大輝に心配かけてばかり。どうすれば、もう大丈夫だって思ってもらえるのかな」

「……泣かないで下さい、織子ちゃん」
織子ちゃんの、正直な気持ちを話した方がいいですよ。
その上で、青峰くんには決めてもらいましょう。
そして、その決断を、織子ちゃんはしっかり受け止めてあげて下さい。

黒子くんは、私にハンカチを差し出しながら微笑む。
ぼろぼろと止まらない大粒の涙を拭いながら、私は何度も頷いた。


「とりあえず、部外者はとやかく言わない方がいいですから、みんなにはまだ黙っておきましょう」
別れ際、彼は神妙な面持ちで言った。
特に、黄瀬くんには。と付け足して。
「うん…」
以前のこともあるし、その方が懸命だろう。

キセキの世代の中で、大輝の選択を特に擁護した人はいなかった。
赤司くんは『そうか』と一言きり、紫原くんも『俺には関係ないし、すきにすれば』という立場だった。
黄瀬くんもさることながら、緑間くんからの当たりも強かった。
『馬鹿め。今まで尽くしてきた人事はなんだったのだよ』と冷たく言い放ったのだった。

大輝の幼馴染みで私の親友でもあったさつきや、大輝の元相棒の黒子くんは理解を示してくれたけれど、大輝も仲間にそれだけ言われてなんとも感じない訳がない。
なのに、決して誰にも弱みを見せず、逆風に屈しなかった。
私はただその広い背中の後ろで守られていただけ。

一時は疎遠になったものの最近は徐々に親交を取り戻しつつある。
みんながどんな態度をとったにせよ、それは結局は大輝のことがすきだから。バスケをしている大輝に、惹かれているんだ。
勿論私も。
練習に打ち込んでいる姿も、コートを駆けるヒーローのような姿も、すきにならずにはいられない。

ただ、だからこそ黄瀬くんから私に対しての嫌悪感は未だに消えない。
あんなことがある前は、普通に仲もよかったのだが。
『なんであんたが青峰っちの邪魔するんだよ』と言われたときは、あまりに図星でことばを失った。
私が大輝の未来を摘み、みんなの光を奪った。それはどうしようもない事実だった。

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