薄暗い部屋で二人きり

 
この雨はいつ止むのだろう。
もう夕刻になる。
昨日の晴天はなんだったのか。

春の雨は苦手だ。
雨も風も強ければ強い程。

(身体が重い…)

でも、部屋の掃除をして、お風呂も掃除して、洗濯は大輝が帰ってきてからでいいけど、夜ご飯も作らなきゃ。
解っていても、身体が動かない。
さっき頭痛薬も飲んだけど、まだ効いてこない。
久し振りだ、この感覚は。

(春なのに、なんでこんなに雨が降るの…)

せめて電気がつけば。
十分程前から、停電していてまだ復旧しない。
この天気だし、この時間だし、室内は決して明るいとは言えない。
大輝はまだ帰ってこない。
彼の帰宅時間まで雨が降り続くかは解らないが、玄関先にタオルを用意して私は力尽きたのだ。
今日バイトじゃなくてよかった。
否、寧ろ外で忙しくしていた方がまだよかっただろう。
はあ、と何度目が解らない溜め息を吐いたとき、ガチャガチャと玄関のドアの錠が回った。
「!?」
まさか大輝が、こんな時間に帰宅?

「帰ったぜー。あ、織子、タオルサンキューなー」

(だい、き…)
玄関まで迎えに行きたい。

「織子?」

返事を出来ずにいると、大輝の方からラグの上で横たわっている私を見つけてくれた。

「なにしてんだよ、電気もつけねえで」
「停電」
「…ああ」
大輝はこちらへやってくると、私を横抱きにして持ち上げる。ベッドの上に下ろすと、「だりいんだろ」と私の頭を撫でた。
私が身体を丸めて頷くと、
「ちょっと待ってろ」
と玄関の方に消えた。
「?」

程なくして戻ってきた大輝の手には玄関に置いていたキャンドルとライター。
「使っちゃうの?」
「こういうときに使うもんだろ」
飾りとして置いていたそれは、先月買ったもの。濃淡様々な青色をした星形のブロックがたくさんグラスに入っている。
でもそれは、私と大輝でペアで揃えたはず。
「私の水色のは?」
「二つ同時に使うのか」
「ん…勿体ないけど、一つにしちゃうと寂しい」
「しゃあねえな」
私がぼそぼそと呟くと、 再び大輝が立ち上がって片割れのキャンドルも持ってきてくれた。
「ありがとう」
「点けんぞ」
「うん」

二つの淡い炎が灯って、天井にゆらゆらと影が浮かび上がる。
「結構明るいもんだな」
「うん」
私はもそもそと身動ぎをして具合のいい角度で、ベッドに凭れる大輝の肩越しにキャンドルを見つめた。

「どうして、今日帰り早かったの」
「バイトの先輩が、明日と代わってくれって」
「そうなんだ」
「代わってよかったぜ」
「…ありがとう」
大輝とゆっくりことばを交わしながらキャンドルの火を見つめていると、頭に響いていた雨音も気にならなくなってくる。

「寝てていいぜ、織子」
「ん…掃除がまだ…洗濯と、夜ご飯も…」
「いいから、寝てろ」
「…大輝…」
ありがとう。


二人でいれば、不気味な薄暗さも、重たい雨音も怖くないよ。

大輝の温もりが、ここにあるから。

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