11

 
「お前たちは付き合ってどれくらいになるんだ」


食べるものも飲むものも粗方片付いた頃、赤司くんが突然尋ねてきた。
「えっと…」
いつだったかな、と大輝に目で問う。
「中学のときからだけど」
「正確には解んねえな」
気付けば付き合っていたから。
「そうか。まあ、中学から一緒でもう十年近く経つのか」
「そうだね」
「数字にするとそんなもんか」
想い出は数え切れないけれど、十年という年月が長いとも短いとも思わない。
結局は捉え方次第なのだ。

「大輝が一度アメリカでのプレーの話を断ったとき、もう二人が離れることはないと思ったよ」
何故、赤司くんが寂しそうに笑うのか―――私は漠然と疑問に思いながら、
「大輝の成長は、続いてるんだよ」
赤司くんにも予想出来ないくらいにね、と返した。
「そのようだな」
彼は深く頷いて、波塚には感謝しているよ、と突然お礼を言われる。
「な、なに、赤司くん」

「いや…ふと思ったんだ。大輝のフィジカルもメンタルも、よく支えてくれた。元チームメイトとしては嬉しい限りだとね」
波塚のお陰で、大輝はアメリカで一流のスタープレーヤーになるよ。

赤司くんなりに、大輝を激励しているのだろう。大輝も照れくさそうに「おう、火神にも負けねえよ」と笑った。

「だから泣くな、織子」

「うっ…だって…」

赤司くんの前だというのに、大輝はぎゅっと私を抱き締めた。
どれだけ我慢しても、やはり泣いてしまう。大輝の渡米を目前にして、特別でない日など最早なかった。みんなみんな、優しいことばを大輝ばかりでなく私にもくれる。
私たちは、沢山の人に見守られていたんだと、漸く知った。

「二人とも、大きな決断をしたね。そうそう出来るものじゃない」

赤司くん曰く、この送別会の準備の為に家に入ったとき、チェストの上に並べられた沢山の写真立てを見てみんなでそんな話をしたのだという。

私たちの軌跡に、無駄なことなどなかったのだ。

「互いの成功を祈り、それを糧に生きていけばいい。別離の悲しみも永遠ではない」

止まらない涙を手で拭いながら、私は彼のことばに何度も頷いた。



翌朝、早くに赤司くんは黄瀬くんと紫原くんを叩き起こした。
私はその声と物音で目を覚まし、隣で寝転ぶ大輝を揺さ振る。
「大輝、起きて。みんな帰るって。赤司くん、朝ごはんなにか用意しようか」
ぼさぼさの髪を撫で付けながら身を起こし、既に軽く身なりを整えている赤司くんに尋ねた。
「いや、いいよ。構わないでくれ」

ろくに片付けもしないまま昨夜は眠ってしまっていた為、部屋の散らかりようはなかなかだった。
しかしまとめてごみ袋に入れてしまえば直ぐに済む。
だから気にせず帰ってもらおうと思っていたのだが、みんなして部屋を掃除してくれた。その為に、赤司くんは二人を起こしたらしかった。

「じゃあ、捨てて来るね」
両手にごみ袋を持って、もう他に捨てるものはないか玄関から訊く。
今日が丁度ごみの日でよかったと思いながらドアを開けようとしたとき、左手から重みがふっと消えた。
「持つし」
「紫原くん」
ちょっと歩くけどいいの?とフローリングで寝ていた身体を気遣ったが、
「これくらい平気だし」
彼の方が先に外へ出てしまった。

「波ちんはさー、どうしてアメリカ行かないの」
前は引き留めたんでしょ、と隣を歩く紫原くんが言った。
素直とは残酷だ、彼は昔から直球なものの言い方をする。
「お互いの為だよ。したいこともしなきゃいけないことも、大輝と私ではスケールが違ったの」
紫原くんは抽象表現を好まないとは思ったが、なんとかことばにして答えるならこれが精々だった。
「へー」
昨日の寝入り際と同じように、解っているのかいないのかどちらともつかない反応を示し、会話は終わってしまった。

所定の場所にごみを捨て、二人とも黙って来た道を辿る。
紫原くんがアパートのドアノブに手をかけたとき、ふいに振り返って私を見下ろした。

「でも、ずっと離れ離れになる訳じゃないんでしょ?」

「え…?」

それ以上は言及せず、彼は部屋に上がっていった。

ごみを捨ててしまえば、家の中はすっかり現状回帰。
まだ早朝と言ってもいい時間だったが、三人は帰っていった。


部屋は祭りのあと宛ら、二人のいつもの家に戻った。軽くシャワーを浴びると、ベッドで再び私たちは眠った。
お互いの体温を確かめ合いながら。

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