10

 
「青峰っちに、ついて行かないんスね」
「……うん」

意外っスね、と呟いたあとまた数秒黙って、
「あのときのことは…悪かったと思ってるっス。…ちょっとは」
ごくごく、小声だった。どうやらこちらが本題らしい。
「…ありがとう」
今でも間違ったことを言ったとは思ってないっスけど。と唇を尖らせ、彼は続けた。
「でも、青峰っちの選択も間違ってなかったって、今日なんとなく理解出来たっス」
「…どうしてか、訊いてもいいかな」
私が問い掛けると、彼は手を止めた。少し間があってから、

「写真」

と思いもよらない答えが返ってくる。
「あんなことがあっても、あんな写真飾ってるとは思わなかったっスよ。あんたら馬鹿っスね」
「はは…」
あんな写真、とは、中学のときのもののことだろう。
「捨て難いものだよ、実際。飾ってて普通なの」
苦笑を交えて説明すると、黄瀬くんはふーんと手元の作業を再開した。

程なくして解けた、とパソコンを抱えて立ち上がり、私もスピーカーを手に彼に続いた。
「あと、あんたら二人の写真」
「?」
「悪くないっスね」
取り敢えず、青峰っちがバスケを等閑にした訳じゃないことは解ったっス、と早口で言って輪の中へ戻って行った。

(和解、てことでいいのかな)

益々、否応なしに大輝を送り出す気持ちが整っていく。
数年に及ぶ蟠りが溶けていくことは単純に嬉しいのに、胸がキリキリと痛んだ。


夜も深まろうというとき、緑間くんが立ち上がった。終電で帰るらしい。
私と大輝は彼をアパートの外まで見送る。
「悪かったな、急でよ」
サンキュ、と大輝は緑間くんの肩をぽんと叩いた。
「全くなのだよ。お前たちは水臭いのだよ」
彼は大輝と私をぎろりと睨んだ。
「…悪かったよ」
珍しく素直に謝った大輝は罰が悪そうに目を逸らし、私も目を伏せた。
「だが、今回の判断も含めてこの四年間人事を尽くしてきたようだな」

健闘を祈るのだよ、青峰も、波塚も。

そう言い残して、緑間くんは帰っていった。
私は、唇を噛んで大輝の腕にしがみついて頬を寄せる。大輝も無言で私の頭を撫でた。
嬉しい、嬉しいよ。

大輝は、沢山の人に認められている。


部屋に戻ると、紫原くんがうつらうつらと舟を漕いでおり、黄瀬くんは完全に寝ていた。移動や仕事で疲れていたのだろう。感謝の気持ちを抱きながら、それぞれに毛布を掛けてやる。
「紫原くん、泊まっていってもいいからね」
「んー…」
聞いているのかいないのかは解らないが、一応反応はあった。黄瀬くんはもう泊まりで決定だろう。

他の三人はテーブルの上のものを時折摘みながら絶えず話をしている。
「こんな状態で申し訳ないけど、三人もよかったら泊まっていってね」
みんなのコップにお茶を注ぎながら、ね、と大輝に同意を求めた。
「ああ」
しかし、黒子くんは首を横に振る。
「僕は近いので帰ります。桃井さん、送っていきますからいつでも言って下さい」
「いいの?じゃあおことばに甘えちゃおうかな」
「はい」
確かにこんな男だらけの中にさつきは泊められないか、と思い直し、彼女のことは黒子くんに任せることにした。

「赤司くんは?」
「涼太たちが泊まっていくなら僕は遠慮しようかと思ったんだが」
全く起きる気配のない黄瀬くんと、完全に寝入ってしまった紫原くんを、赤司くんは保護者のような目で見つめる。
「泊まってけよ」
大輝がそう促すと、
「そうするよ」
彼は頷いて温いお茶を啜った。

程なくして、さつきと黒子くんは帰っていった。
二人とも、手伝えることがあったらいつでも連絡をくれても構わないと言ってくれた。
「俺がアメリカ行ったら織子のこと頼むわ、テツ、さつき」
「はい」
「うん」
三人が控えめに笑いながらも神妙そうに言うものだから、
「大丈夫だって。大輝は心配性なんだから」

私はいつもと同じように笑った。

[ 10/15 ]
back
top




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -