「お帰りなさーい!織子、大ちゃん!」


ドアを開けると、ぽんぽんとクラッカーの破裂音が私たちを迎えてくれた。狭い玄関と廊下に集まった旧友たちが押し寄せている。

「なんっ…だよお前ら…勝手に人んちに!」
大輝が一歩後ろに引く。

「なんだよはこちらの台詞だ」
「青峰くんの為に、みんな集まったんですよ」
「久し振りにお前の名前を聞いたと思ったらこれだ。こういう大事なことはもっと早く言うのだよ」
「緑間っちの言う通りっス!」
「いきなりだからびっくりしたしー」
王道な手法での掴みはばっちりなようだ。私も勿論音には驚いたが、大輝は如何にもしてやられたという顔をしている。
「びっくりした?」
「お前なぁ…」
私が尋ねると、観念した風に溜め息を吐いた。
「ほらほら早く二人とも上がって!飲みものも食べるものも沢山買ってきてあるし、今日はぱーっとやるよ!」
さつきが私と大輝の手を引っ張った。

「みんな飲みもの持った?」
さつきが全員に確認する。
各々適当にテーブルを囲めば、家が朝とは全く違う場所のようだった。大きな男が何人も入れば当然だが、狭く賑やかで。
なんでもなくても集まれば騒いでいた中学の頃と変わらない。
「おっけー」
「っていうかなんで全部ジュースとノンアルコールなんスか」
「俺は酒飲まねえんだよ」
「そうなんスか!?」
「意外なのだよ」
「織子が飲ませてくんねえの」
「アスリートは身体が資本だからね」
「赤司くん、乾杯の音頭お願いします」
「ああ」
場の空気だけでも十分楽しくて、私は頬が緩んだ。

あのいざこざから、もう四年が経とうとしている。私は未だに彼らとは気まずく、まともには話していない。
だから、実を言うと今日のことは少し緊張していた。
が、大輝は楽しそうにしている。
みんなももういい大人になったのだ、大輝が主役であるこの期に及んで、誰も気を悪くするようなことは言わないだろう。集まってもらえてよかった。

「では、大輝のアメリカでの活躍を願って―――」
乾杯、とみんなで紙コップを掲げた。

大輝を除いても、彼らが顔を合わせるのは久し振りらしく、近況報告に花が咲く。
黒子くんは漸く卒論が終わりました、と頬を掻いた。
赤司くんは大学でも優秀な成績で多くの講義を修め、首席で卒業と相成ったらしい。就職難も何処吹く風だ。
腐れ縁となった相棒の高尾くんと同じ大学に通っていた緑間くんも、悪くない学生生活だったと振り返った。こちらも就職にイレギュラーはなし。
黄瀬くんのメディア露出は以前にも増していて、媒体で見かけることが多くなった所為か誰からも心配されることなく軽くあしらわれている。
高校からそのまま秋田の大学に進んだ紫原くんも、奮闘の末都内に就職が決まったという。

「あ、俺火神っちの出てる試合のDVDゲットしたんスよ!今から見ないっスか!」
黄瀬くんが自身の鞄を漁り、一枚のディスクを掲げた。みんなの視線がそれに集まる。
「いいですね」
見られますか、と最初に同意を示した黒子くんが私を見た。
「うちデッキなくて。パソコンでいい?」
「はい」
「ちょっと待っててね」
私は立ち上がって、部屋の隅に追いやった荷物の山からノートパソコンやバッテリー、スピーカーを下ろしていく。
これらも、ギリギリまで出しておいて正解だった。
周辺機器のケーブルとまとめてあった為、少しずつ解いていく。

「言い出しっぺだし、手伝うっス」

後ろから声を掛けてきたのは、意外にも黄瀬くんだった。

「あ、うん…ありがとう」

そういえば、今日はまだ一回も目を合わせてなかったな、と思いつつ差し出された手に機器の塊を任せる。
珍しい、なにを言われるんだろう。
確かに彼は私の鬼門であった。しかし彼は間違ったことは言っていないし、逆恨みするつもりもない。なにを言われてもあの頃と同じ、頷くだけだ。

(まあ、今日は私のことはどうでもいいか)

変に構えては却っていけない。
黄瀬くんの手元をぼーっと見ていると、遂に彼が口を開いた。

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