でも、楽しかったよ

 
すっかり解けて生クリームと同化したアイスクリームをスプーンで掬いながら、私は真太郎に尋ねた。

「今日は我が儘聞いてくれるんだよね」

「ああ」
真太郎が頷いたので、引っ掛かっていたことについて訊いてみることにした。
気のせいだったらごめん、と前置きをして。

「赤司くんの名前が出ると怒るのは、どうして?」

「…そんなことはないのだよ」
気まずそうに、真太郎は私からふいと目を逸らした。
「私には、言えない?」
私はそれを見逃さず、テーブルに肘をついて身を乗り出す。

「…赤司は、」
「うん」
真太郎は観念したように少しずつ話し始めた。

「あすか、お前を京都に連れていこうとしていたのだよ」

「……はい?」
「桃井も言っていただろう。あいつもあすかのことがすきだったのだよ。宣戦布告を受けていた」
「嘘」
私は呆けながらゆるゆると首を横に振って否定する。
あの赤司くんが、私を?
そんなまさか。

「嘘ではない。あすかが鈍すぎるのだよ」
真太郎がやれやれと息を吐いた。
「真太郎がそれ言う?」
「話の腰が折れるのだよ」
「だって、そんなの信じられない」
確かに比較的仲良くはしてもらっていた気もするが、あくまでも副主将について回っているおまけみたいなもの程度にしか思われてないと思っていたのだ。

「その“比較的仲良く”が問題なのだよ。具体的に思い当たる節があるだろう」
真太郎曰く、彼は散々私に構っていたのだから、と。

「うーん…?」

どうだったろう。
中学時代をざっと思い返して、“比較的仲が良かった”といえる根拠をいくつか挙げてみる。
「なんかよく話かけられてたかも。廊下で会ったときはほぼ100%だった気がする。荷物を持ってくれたこともあったかな」
その他委員会の仕事でアンケートを集計していたとき等、一人で困っていると必ずと言っていいほど赤司くんが助けにきてくれた。

「それなのだよ…」
真太郎が皺の寄った眉間を示指で押さえた。
「え、」
あれってそういうことだったの?
いつも、私の仕事が遅いから見兼ねて手を貸してくれてるんだと思っていた。

「あすかは脇が甘すぎるのだよ」

「ごめん…」
私はずっと真太郎がすきだったのに、行動は気持ちと乖離していた。
剰え、言われなければ気付いていなかった。
鈍いと言われてしまえば返すことばもない。
今後も、不安にさせたり心配をかけたりすることだってあるだろう。
そう思うと真太郎からの信頼を得ることは簡単ではないように感じ、謝るしか出来なかった。
顔を上げられずにいると、彼の焦った声が降ってくる。

「い、いや、あすかを責めている訳ではないのだよ!」

「真太郎?」
「俺が…っ、してやりたかったと思っただけなのだよ…」
なにを?と首を傾げてみれば、真太郎の顔は赤くなっていく。
「俺は赤司と違い、あすかになにもしてやれなかった。荷物を持つことも、委員会の仕事を手伝うことも」
当時からあすかにはもらってばかりだったのだよ、ということはつまり。

「嫉妬?」

「っ…、悪いか!」
真太郎が、嫉妬。
「ふーん、ふふふ、へーえ」
抑え切れずに、口元から笑いが漏れた。
「なん、なのだよ」
「んーん、なんでもない」
中学からの付き合いだったのに、まだまだ知らない真太郎が沢山いる。

(こんな幸せな日が、あるんだなぁ)

洛山に負けた日は、こんなに心が潰れそうになることがあるのかと思った程だったのに。
散々泣いて、そのあとこうして一緒にいられるから、笑えるのかもしれない。

「今日楽しかったよ。色々あったけど」

暖かい紅茶を一口啜って、真太郎にも同意を求めた。

「あすかがそう言うなら悪くはない…だが、今度は更に人事を尽くすのだよ」

バスケで勝つ為にも、あすかを笑顔にする為にも。


(努力家な真太郎がだいすき!)

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