高尾くん

 
彼は只管無言を貫いていた。
機嫌の悪さを、全身で表している。

「ねー真太郎」
「…なんなのだよ」
「散々邪魔が入って怒ってくれるのは嬉しいんだけどね?」
さすがにそろそろ機嫌直してくれないと、私も微妙な気分だよ。

そう訴えると真太郎は、う、とばつが悪そうに私を見下ろした。
「今日のおは朝占いは二位だった。なのに何故なのだよ…」
「ラッキーアイテムは?」
「乾湿計だ。鞄に入れて持ち歩いている」
うーん。いつも通り人事は尽くしているだろう。
なのに、何故今日はこんなにも厄日なのだろうか。

「そうか!」

「え?」
なにか閃いたらしい真太郎は、突然方向を転換した。

向かった先は、かわいい雑貨屋さん。
「なになに?」
彼は一度店内を見回すと、ヘアアクセサリーのコーナーへ歩を進めた。手を繋がれたままの私は、訳も解らずついていくしかない。
流行に合わせてディスプレイされたアクセサリーたちと私の顔を何度か交互に見たあと、それらの内の一つを手に取った。
「これだ」
「?」
赤いリボンのクリップを、私の髪に当てた。
「かわいいね。似合う?」
普段はあまり身につけないようなものである。
鏡に映すと不自然に見えて、冗談っぽく尋ねてみた。

「ああ」

冗談、だったのに。
大真面目に返されて、私は閉口する。
一人で勝手に照れていると、真太郎はレジに向かっていく。
「し、真太郎、待ってよ!」
もしかして、プレゼント?
追い付いたときには、既に真太郎がそのクリップの会計を済ませていた。

「じっとしているのだよ」
「…うん」
お店を出ると、真太郎は直ぐさま包装を解いた。
パチン、と耳元で軽い音をたてたリボン。私の頭に無事納まったらしい。
「くれるの?」
「ああ、これであすかの運勢は補正されたのだよ」

「……」

なんとなく、なんとなくは解っていた。
でも、プレゼントはプレゼントだ。
私の為の。
なんとも真太郎らしくて、私は思わず笑みを零した。
「よく似合っているのだよ」
「ありがとう。大事にするね」
こうして私たちに漸く平和が訪れた。

と思っていたのが他ならぬ油断だったのだろうか。


「あれー?真ちゃんとあすかちゃんじゃん!奇っ遇ー!」
あ、もしかしてデート?なになに遂にカップル成立?

顔を見るなり真太郎の相棒、高尾くんは捲し立てた。


「へえーそっかそっかー!上手いことやったな真ちゃーん!」
「うるさい黙れ騒ぐな」

本日何度目だろう、この感じ。もうメンタルはへろへろだ。
私たちは何故こうも前途多難なのだろうか。
妹のショッピングに付き合っているという高尾くんに、やはり例によって質問攻めに遇い、15分程捕まった。

「よかったね、あすかちゃん。俺すっげー応援してたんだぜ。健気だなーって」
「そうだったの?」
高尾くんもか。
私は少なからず驚く。
真太郎の相棒として、多少は煙たがられるのでは…と過去には思ったこともあったのたが。
高尾くんに限ってそんなことはないらしい。ありがとう、と返しながら同時に心の中で謝った。

「で、それにしても真ちゃん機嫌悪くね?」
「ちょっとね」
肩を竦めて真太郎の横顔を見遣った。
「あ、もしかしてお邪魔?」
始めっから自覚があった風を隠さず、ニヤニヤと高尾くんも真太郎を見る。

「もしかしなくてもそうなのだよ」

彼からの視線を真太郎は、ピシャリと跳ね退けた。
「そりゃ失礼。じゃーね、お二人さん」
高尾くんはいいものを見たと言わんばかりの笑顔で別れを告げ、去っていった。

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