さつき青峰くん

 
「と、いう訳で付き合うことになったのだよー」

ぶい、とさつきの前に左手を突き出した。右腕は、真太郎のそれと絡め合っている。

今日は部活が休みで、市街で念願の初デートをしていた。
そのさなかで、青峰くんと歩いているさつきに出会し声をかけられたのだ。
手を繋いでいたので、なにごとかと取っ捕まって根掘り葉掘り訊かれ、私はそれなりに応じて経緯を明かした。あまり真太郎が好ましく思わないであろうことは解っていたが、少し大目に見てもらう。
中学のときからさつきは私のことを応援してくれていたし、少しくらいは、と。

「あすか、真似をするな」
「むー」
真太郎の咎めに唇を尖らせると、さつきが声を上げた。
「素敵ー!素敵ー!よかったねー!」

彼女は涙すらうっすらと浮かべて祝福してくれた。
えへへと私が顔を赤らめると、真太郎は「もういいだろう、行くぞ」と私の腕を引いた。
「え、もう行くの?ちょっと大ちゃん!呆けてないで大ちゃんもなにか言ってよ!」
興奮したままのさつきが青峰くんの腕をばしばし叩いた。その彼はぽかんとしたまま、

「お前…緑間のことすきだったのか」
そう零した。
さつきがぴしりと固まる。
「え、え…あんなに解りやすかったのに、気付いてなかったの!?」
「さつき…」
確かに、自分でも解りやすかったと思う。しかし改めて指摘されると恥ずかしいものだ。真太郎以外のみんなにはしっかりばれていたし、青峰くんもてっきり知っているものと思っていた。
私は思わず俯き気味になる。

「そうなのか!?」
「そうなのか!?」

真太郎と青峰くんの声が被った。
「え、うん…黒子くんや黄瀬くんに、何度頑張れと言われたことか。紫原くんにまで『飽きないねー』とか言われてたし」
挙げ句、私が余程不憫に映ったのか赤司くんにも同情の目を向けられ、『俺にしないか』と言わしめた。
「可笑しいよね、赤司くんてば」
苦笑しながら過去を振り返ると、今度は三人が三人、動きが停止していた。

「あすか!それ同情じゃない!」
「全くだ!あすか、お前はどうしてそう隙だらけなのだよ!」

危なかった、と二人が重たい溜め息を吐いた。
「うーん…?」
もし、万が一、仮に、赤司くんが本気だったとしても、私は一ミリだって靡いたりしないのに。
二人とも酷くない?と青峰くんに同意を求める。
「いや、緑間が美原のことすきなのは知ってたけどよ」
「え!嘘!」
また一つ新たな事実が明らかになった。
青峰くん、私じゃなくて真太郎の方を知ってたの?
「こんなとこで嘘なんかつくかよ」
彼に食らいつくと、彼は面倒くさそうに肯定した。
一方で真太郎は、
「青峰お前…!」
と目で牽制しようとしている。その傍らさつきは特に動じていない。
「さつき、なんで驚かないの」
「私も、ミドリンがあすかのことをすきなのは知ってたよ」
可愛らしく小首を傾げて、剰え私を驚かせる。
「さつきまで!?」

知ってて、その上でいつも相談に乗っててくれたんだ。さぞかし鬱陶しかったろうに、ずっと『大丈夫だよ』と励ましてくれていたことを思い出す。

ごめん、と肩を落として謝ると、彼女はなんでもなさそうに首を横に振った。
「がんばるあすか、いつもかわいかったよ」
そんな訳あるものか。罪悪感が重たく降ってくる。
私が頭を抱え始めると真太郎が遂にきれた。

「いい加減にするのだよ!今日は以前から約束をしていた日なのだよ!」
行くぞ、と強引に私の腕を引いて今度こそ歩き出す。
斜め後ろから見上げた真太郎の異変に気付いて、みるみる内に私の顔に熱が集まってしまった。

(真太郎、耳赤い…)

寒さの所為じゃ、ないよね。

「じゃあまたねー!ミドリン邪魔してごめんねー!」

さつきが後ろで大きく手を振っている。真太郎の変わりに私が手を振り返しておいた。
青峰くんはやれやれって顔をしている。
二人ともありがとう、と心のなかで呟いて真太郎の腕にぎゅっと抱き着いた。

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