デレデレしないで

(※38Qネタ)


どうも様子がおかしい。
目が合うと反らされる。
つまり、避けられている。
はっ、鮭を避ける!キタコレ!
…とかさすがに言ってる場合じゃない。
「なぁ、櫻本。今日の英語の課題だけどさ…」
避けられていることに気付いていない振りをして、普通に話しかけてみる。
「あぁ、うん…」
返事はあるが、明らかにこっちを見ない。それどころか、ふいと向こうを向いた。かなり傷付く。
最近ちょっといい感じだとか思っていたのだが。何故好きな子から突然こんな仕打ちを受けなければならない。

同じクラスの想い人、櫻本みはな。
切り揃えられたさらさらの黒髪が真面目で繊細な印象を与え、そして正しくその通りの人柄だった。
クラス内では目立つ方ではないが、笑うときには笑い、怒るときには怒る、全くもって普通の女の子。
隣の席になって初めて話したとき、単純だが笑顔が好きになった。それから、きれいな字、手入れの行き届いている指先、よく通る声、彼女の色んなところに目が行って、全部すきになっていく。
自分でも盲目すぎて馬鹿だと自覚はある。
でも惚れたのだから仕方ない。
どうにかして興味を引くことが出来ないかと、些細なことでもよく話しかけた。その甲斐あって、元々あまり男子とは親しくはない彼女の、割と仲のいい男子のポジションを得た。
バスケの話にはいい反応を示してくれているし、そろそろマネージャーになってくれないか頼もうとしていた矢先。
つまり今日。

「あ、ごめん、ちょっと友達が呼んでるから…」
遂に逃げられた。小さな背中がドアまで走っていく。
誰だ、友達って。
「って、おい…!」
カントクだった。
櫻本は何事かを必死にカントクに訴えているように見える。俺に背を向けているからよくは解らないが、少し取り乱している様子だ。
俺が目を反らせずにいると、遂にカントクと目が合った。
「…!」
そのカントクの口角がにっと持ち上げられ、唇が一言紡いだ。

ざまあみろ。

「(なっ、カントク!?)」
一体櫻本になにをした?
目がマジだ。
俺は朝からの出来事を脳内で高速再生する。
「(あああ!)」
黒子の自称彼女だという女子がジムでの練習中にやってきたのだった。
カントクがなにか吹き込んだに違いない。
いやあれは全員同罪だろ。
…もしかして、今頃みんな同じ目に遇っているのだろうか?
カントクならやりかねない。
怖ェー!
顔に出ていたのか、カントクがオレを見ながらニヤニヤしていた。
その手は櫻本の肩を撫でて慰めている。
「(あ…、悪魔だ)」

予鈴が鳴ると、櫻本は重たい足取りで席に戻って来た。
落ち着きなく机の中から教科書を取り出して用意をしていると、気まずく余所余所しい空気が流れる。
「あ、あのっ…」
「ん?」
こちらを見ないまま、櫻本の方から話しかけてきた。
よく見えないが、耳が赤い。
「どうした?」
先が気になってしょうがない。今はどんな些細なことでも話してほしい。
しかし彼女はなかなか言い出せないようで、手は机の下で忙しなく指遊びをしている。
ますます気になる。
桝が増す!
いややはりそんなことを言っている場合じゃない。
そんなことが暫く続いて、遂に意を決したらしい櫻本がキッと刺さんばかりの視線で俺を見た。
「伊月くん!」
「は、はいっ」
思わず背筋が伸びた。
「伊月くん、は…Aじゃだめですか…」
「は?」
最後の方は消え入りそうな声だったが、聞き間違いでなければ。
顔が青ざめていくような、熱が集まっていくような。
それって、もしかして。
「やっぱりなんでもない!忘れて!」
「(胸の話か――――!!!)」
その涙目反則反則!カントクなにしてくれてんだよ!
「それ、カントク…相田に言わされてんだろ?」
全く、真に受けるなよ。
そう言って取り繕って態とらしく溜め息をつきながら、眉根を寄せた。
「違う!リコちゃんは、関係ない!私が勝手に気にして…じゃない、なんでもないの!とにかく忘れて!」
……は?
こんな取り乱した櫻本を見るのは初めてだ。可愛すぎる。
しかもなに?
なにを気にしてるって?
事態を自分に都合よく解釈するのならば、これはチャンスだ。
口元が堪えきれずにやりと歪む。
「櫻本ー、なにを気にしてんの?」
「なんでもないってば!お願い、忘れて…」
櫻本は手で顔を覆って俯いてしまった。
首まで真っ赤。
「くくっ、かーわい」
「か、からかわないで!もう!」
あーだめだめそんな目をしても。
「すきだなぁ」
「えっ?」
目を反らされないように、真っ直ぐに櫻本の目を見つめた。
「やっぱすきだな、櫻本のこと」
「な、」
まだまだ赤くなる櫻本の顔。大丈夫か?
「なによ!スタイル抜群の水着美女に鼻の下伸ばしてた癖に!」
おおっと。
ここでそう来たか。いや、寧ろ手っ取り早く誤解を解くタイミングが巡ってきたのだ。
「後輩の彼女だって言う子が来たから、そりゃ騒いでたけどさ。俺は、櫻本がかわいいと思ってるよ」
「……」
ちょ、睨まれてる?口説いてるみたいに聞こえただろうか。
暫く沈黙が流れて、
「私は日向くんの方がいい」
櫻本がそっぽを向いた。
「はっ?」
息が一瞬止まった。
「…嘘。」
目だけでちらりとこちらを向いた彼女は、唇を尖らせている。
「仕返しだよ」
今のことばが本当なら、他の子にデレデレしないでね、とまた顔を真っ赤にして櫻本は言った。

「じゃあさ、みはなにデレデレすんのはアリ?」


彼女が小さく小さく頷くのを、俺は見逃さなかった。

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